映画・感想

映画感想:「空白」

2021年製作/107分/PG12/日本
配給:スターサンズ、KADOKAWA

公式サイト

あらすじ
はじまりは、娘の万引だった-。
ある日突然、まだ中学生の娘が死んでしまった。スーパーで万引しようとしたところを店長に見つかり、追いかけられた末に車に轢かれたというのだ。娘のことなど無関心だった少女の父親は、せめて彼女の無実を証明しようと、店長を激しく追及するうちに、その姿も言動も恐るべきモンスターと化し、関係する人々全員を追い詰めいていく。
『新聞記者』『MOTHER マザー』のスターサンズが『ヒメアノ~ル』『愛しのアイリーン』などで、衝撃と才能を見せつけた監督・吉田恵輔とたっぐを組み、現代の「罪」と「偽り」そして「赦し」を映し出す、吉田恵輔監督オリジナル脚本で挑むヒューマンサスペンス。

以下、雑感

めちゃくちゃイイ映画。イイ物語だった…。
一言では片づけられない、後悔と赦しのお話。

*****
静かな港町で起こる交通事故から始まった一連の出来事。
当事者たちにとっては人生に関わる大事件だけど、傍から見てる者たちからしたら娯楽の一つでしかない。
無関心と好奇心の混ぜ合わさった野次馬たちのリアクションがリアルでしんどい。
囃し立てるマスコミやイタズラの満ち引きが余計に事件を際立たせる。

その混乱の中でそれぞれが自分の「空白」を埋めようと行動する様が、どこか痛々しくも愛おしくなるような、
感慨深い作品でした。

*****
映画観てこんなこと言うのいつもどうかなぁと思うんですが、

芝居が上手ェ~~~~~!!!!!みんな!!!!

古田新太、7年ぶりの映画主演作。新感線はじめ演劇でいつも拝見する様とは一味違う、圧巻の芝居。
温度差が凄いんですよ。
序盤怒りと恨みでメラメラモンスター状態から、終盤の自分と向き合ってからの落ち着きよう。
空気まで本当に柔らかくなっていくようですごいの一言です。

そこに至るまでの過程も丁寧に描かれていてしっかり受け入れられた。
救いは他人から、自分の外に目を向けてこそ得ることが出来るんでしょうか。

遅かったかもしれないけど、少しずつ向き合おうと努力する添田さんの健気さが胸にきました。

そして松坂桃李。やばい。

あのアンニュイな感じのイケメンが田舎町にいたら世話も焼きたくなっても無理からぬこと。
「娼年」の時の色気も健在ですね。

古田新太もそうですけど、この、やった人・やられた人の”微妙”な所の気持ちを絶妙に表現していて、
しかもぶっ飛びすぎてないので飲み込みやすかったです。
内心うざくても、草加部さんにはっきりトドメの一言を刺せない。加害者になりきれない弱さとか、
弁当屋で暴走してしまったり。弱っていく脆さが丁寧で、正直目を覆いたくなるような場面がたくさんありました。

起きてるコトはかなりヘビーなんですが登場人物たちのリアルな対応や反応が共感できてきつかったです(褒め)

寺島しのぶの演じる草加部さんも正しく「いるいるこんな人」って感じ痛々しかった。いい意味で。

「空白」を抱えた人間のバリエーションが豊富!
さりげなく(そう思ってるの本人だけでしょうけど)ボディータッチを図る感じとか、やんわり嫌がる店長のあの空気感。
すごくリアル。男女逆なら完全にアウトなやつですね。映画のまんまでもダメですけど。

自殺未遂の時のキスまで流れでいっちゃうところとか。こ~己のことでいっぱいいっぱいになってそれに気が付いてない。
“偽善者”の描き方もすごい。
こういう時いつも好きな漫画にあるセリフ、「正義を語る者に正義はない」というのを思い出します。

押し付けられてる青柳店長の叫びも苦しくてよかった。感情がガシャンと割れるというより、限界超えて溢れ出してるような、
にじみ出てくる言葉が…、こっちまで泣きそうになります。

一番好きだったのは藤原季節演じる野木くん。

べらべら喋って正義を押し付ける草加部さんと相反して、乱暴な言葉とは裏腹に行動(黙って船辞めてきたりとか、記者たちに怒鳴りつける所とか)で添田さんに寄り添ってくれる野田くんの健気さ。
そしてその根柢の動機も切実でよかった。一番素朴な”優しさ”を感じました。

添田さんを説得した台詞も、本人にしか感じられない重み(空白?)を感じさせてくれてとてもよかった。

*****
日ごろ映画とか観てても入れ込むキャラクターって数人とかな気がするんですが、全体的に満遍なく感情移入できました。
偏に人物造形の精密さの成せる技でしょうか。

飽きさせない物語の展開も、予想はつくけどそれを一つ越えてくる持って生き方も素晴らしかった。

絵描くの辞めんのかよ!って内心ツッコミましたが、亡き娘を理解しようと試行錯誤していく様が微笑ましかった。

*****
安直にすっきり片づけず、それぞれに罪悪感や後悔という空白を残しつつ、先に進む希望の残るエンディングがとても切なくて、
どこか爽やかで好きでした。

ビターなエンディング。衝撃的な展開の連続で驚きで口が空いてしまうこと多数。おかげで語彙もかなり死にました。

今年度の邦画、遡ってもかなりの傑作なのではないでしょうか。

胸がかなり締め付けられますが、最後には少し優しい気持ちになれるような。
そんな映画でした。

初日に観られて最高でした。