2019年製作/98分/R15+/ベルギー・デンマーク・アイルランド合作
原題:Vivarium
配給:パルコ
2021/3/12公開のサスペンススリラー。
全く同じ家が立ち並ぶ謎の集合住宅地「ヨンダー」に閉じ込められた若いカップル。
車のガソリンも切れ、途方に暮れる二人の前に謎の段ボールが届く。
中には見知らぬ赤ん坊とメッセージ。
”育てれば解放される”
果たして二人はこの不気味な住宅地から脱出することができるのか。
*****
以下雑感。 ※観た人向け。ネタバレありです。
嫌!
な映画だなぁ~~~~~~~。最高でした。
まさか敗北エンドとは。なので主人公二人でしたが実際には、
怪異!人食い集合住宅地「ヨンダー」の生態ドキュメント!
みたいな感じ。
怖い。怖いんですが怖さよりも不快感とかの方が強い映画でした。
予告のあおりにもありましたが、主人公二人がまさに精神崩壊!していく様が丁寧でしんどかったです。
狂っていくのではなく弱っていく。
これでまた二人がめっちゃ良いカップルなんでよねぇ。余計にツラい。
序盤の二人のやり取りが、
少ないやり取りで二人の仲の良さとか人の好さとか未来に向かって頑張って生きてる感じがスッと入ってきてすんなり感情移入できたんですよね。
だからこそ余計にツラい。(二回目)
精神の弱らせ方がマラソンみたいでこっちが息切れしそうでした。
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二人の関係性がとても美しかった。
結果ヨンダーに負けてしまったわけだけど、最後まで心は負けなかったジェマ。マジでカッコよかったなぁ。
トムの死に際の二人のやりとりは最高。「家」にまつわる話で最期のあのセリフはドンピシャ。
家を探して帰りたがっていたトムはあの時ちゃんと帰れたということなんでしょうか。
皮肉ですがラストは二人同じ墓に入れたんだなあ…。
めっちゃ幸せになってほしかった。
カーステレオで二人で踊るシーンも美しい。絶望の中の高揚感。綺麗だけど哀しかった。
ホラー要素も抜群ですが映画として素敵すぎる「画」がすごく多い。
作中でのたばこの使い方も印象的。
死にかけの仲間に煙草吸わせるやつじゃ~~~ん!!大好物!!ってなりましたね。
二人の愛というか絆の根っこがしっかりぶれないから、状況の異常さや不気味さにより集中できたと思います。
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それにしても”不快感”という点ですごい徹底ぶりでしたね。
「マーティン」たちの無機質な、不気味の谷のドンピシャ谷底みたいな質感。
冒頭のヨンダーをぐるぐる回る場面、あれは本当に目が回ってしまって、まるで穴の中に吸い込まれて行ってるような錯覚が。
劇中結構アップで強調されていたと思うんですが、「衣・食・住」に加えて「性」の要素。人間の生活の生理的な要素がかなり嫌な感じに描かれていました。
他人の行為は結構ゾゾっとくるものがありますね。
ワントーンのカラーリングもずっと与えられるづけるとストレスになるんですね。手術衣が緑な理由とかを思い出しました。
本来はグリーンは落ち着けるカラーだと思うんですか。
あのプラスチックのような世界だと不気味さが補強されますね。
「マーティン」がほんとに子供というよりも虫みたいでめちゃくちゃ気持ち悪かったですね。モノマネや奇声とかこっちが生理的に無理なことをめちゃくちゃ考えたんでしょうね。嫌すぎる。さすが。
ここからは自分なりの解釈という考察というか
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ヨンダーはマンション?もしくは地獄のような階層構造になっているのではないか?そしておそらくループしている。
ラストのツルハシアタックのあと「マーティン」が逃げ込んだ地下(世界の裏側)は下り坂気味になっており、その後どんどんと落ちていくような描写がありました。
下に落ちるほどに別の家族、おそらく捕らえられた他の犠牲者たちの家にいきます。落ちるごとに家が変わる→階層が変わっていき、最期自分達の9番の家に戻った時も階段から(上)落ちてきました。
舞台となる「9」番の家。しかし他の家には番号はありませんでした。そこから、もしかしてあのヨンダー全体で「9階」だったのではないかなぁ。なんて。
なので出口はもしかして上?もしくは下?
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社会風刺というかなんというか。
一見「幸せ」な、ステレオタイプな家族像がめちゃくちゃ皮肉られてたように思いました。
子供を授かり柱に身長を測って、食って寝てセックスを覗かれちゃったり。
男親が育児にあんまり積極的じゃなかったり。最後は二人同じ墓の中に。
しかし全てが謎の生き物と脱出不可能の空間に強制されたもの。
冒頭のカッコウの映像からも示されてますが、めちゃくちゃ気持ち悪いですねぇ。
それが異質なもの間違ってるものと分かっていても搾取される側は抗えず、
終いには「あれ」と呼んでいたモノからゴミのように消費されてしまう。
現代の格差社会にも一石投じているのでしょうか。
終わってもまだまだ考えられることが多い。
濃密な作品でした。
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脱出するルートはあったんでしょうか。
あの時車で「マーティン」を仕留められていれば抜け出せた?
物語通して「教育」もテーマになっていたように思います。というか「学習」?
モノマネをする「マーティン」。上手くいかないと奇声を発し、望みを叶えないと全く言うことを聞かない。得体の知れなさも相まって二人はノルマをこなすように要求に応えていくわけですが、
実際の子供も同じような側面がありますよね。望むまま与え続けるととんでもないわがまま人格になってしまう。
結果本当に化け物だったわけですが、
幼少期にジェマだけでなくトムも、本当に愛情を持って向き合えていたらもしかしたらなにか変わったかも。
ですので、
教育によって「マーティン」を味方につける
というのが唯一の脱出ルートだったのでは?と予想してみます。
「マーティン」は劇中で一度もトムのことを”父”とは呼ばないんですよね。二人で育てることができてればもしかしたら…?
かなり無理ゲーですが。
「ビバリウム」で育てられていたのはどちらだったんでしょう。
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単なるホラー映画ではなく、観るたび思い返すたび新たな発見がありました。
よくあるホラーよりも主人公二人の関係性や絆がグッとフィーチャーされていて、まさに二人の物語。美しい二人でした。
でも今後不動産屋に行くときは警戒していこうと思います。