観劇・感想

観劇感想: I-ACT プロデュース「ミモココロモ」

作:泊篤志 演出:岩瀬 巧
会場:甘棠館Show劇場
チケット料金:2.500~3.000円
上演時間:約130分

公演の説明
福岡・佐賀を中心に活動するI-ACT (アイ-アクト)のプロデュース公演。
福岡の若手俳優を中心に、北九州の劇団・飛ぶ劇場の作品「ミモココロモ」を上演。

あらすじ
その町では毎年、映画祭で沸く季節がある。大学の映画研究会の面々は、盛り上がる映画祭を横目に先の見えない日々を過ごしていた。
くだらない映画を撮る者、恋愛ゲームにうつつをぬかす者、宗教にはしる者。
そんな彼らのモラトリアムなサークルの日常に、【死】というさざ波が押し寄せる。

「人を好きになんてならない人間になれればいいのに」

彼らの平穏で揺るぎやすい日常や、心の動きを激しく描く「異色恋愛劇」。

キャスト:
上条拳斗
友田宗大(万能グローブガラパゴスダイナモス)
森武マイ
萩尾ひなこ(SPARKLE PROMOTION)
髙橋来人
江越暉
小畑華子
涼花
松村来夢(おちゃめインパクト)
東沙耶香(劇団ショーマンシップ)
テシマケント(劇団ZIG.ZAG.BITE)
有峰サラ(Unit Atlas)
立花恭平

以下:雑感

なんとも、複雑な気持ちになりました。

福岡の若手俳優ごった煮。そういう意味でも見ごたえがありました。

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舞台装置は大学の映画研究会の部室。

クリーム色の壁パネルにセンターに長机。4、5人分のパイプ椅子。

下手には窓が一つ。最下手に黒いソファー。

出ハケはカミシモ。下手は映研の試写室?編集室?になっている。

室内は窺えないが、ハケ口になっているのかな?

*****

春。ある大学の映画研究会。

新年度で浮足立つこの部に、市で開催される映画祭の話が舞い込んでくる。

新入部員を含め、映画祭へ向けての作品製作に臨む面々。

映研の前部長・斎藤は自らも作品作りに取り組みながらも、新入部員の関にちょっかいをかけていく。

それを苦々しく思いながらも、はっきりと咎められない斎藤の恋人・舛野。

その舛野に想いを寄せる現部長・新井。作品性の違いや舛野への想いもあり、斎藤と衝突することもしばしば。

思うようにいかない作品作りや恋愛関係に次第に心を病んでいく舛野。

だんだんと宗教団体にのめり込んでいってしまう。

その団体では、「人間はもっと自由に、やりたいことをやりたい時に、やりたいようにやったほうがいい。」というような考えを持つようになった舛野は、

ついに斎藤と関の逢瀬の現場に踏み込み、関を殺害。行方をくらませてしまう。

時は流れ冬。

憔悴した斎藤は部員たちに新たな映画作りを持ちかける。

自分なりの贖罪のため、事件を映画化し向き合おうとする斎藤だったが、まだ傷の癒えない部員たちには断られてしまう。
諦めた彼はもう一つの脚本を取り出す。

”人生の選択肢の一つ”として書いたというその脚本を残し、編集室に去る斎藤。

「もう恋なんてしたくない。いっそ恋なんて感情のない人間になれればいいのに」と言い残した彼は室内で首を吊り、自殺してしまう。

その後、新井は果たされなかった彼の想いと願いを成就させるため、彼の遺作(遺書)の映画化を決意するのであった。

*****

ざっくり言うと、大学サークル内のドロドロ恋愛模様。

いきすぎちゃって刃傷沙汰までいってしまって結果恋愛なんてもううんざりみたいになってしまって男の方も自殺してしまう。

雰囲気でまさしく劇的に感じてしまったけど、よくよく考えなくても斎藤くんは自業自得のクソ野郎でしたね。

ラストのシーンで細川先輩(上条拳斗さん)が、「お前は勝手すぎる」と言ってましたがまさしく手前勝手な男。

大学生って(限らずですが)いますよねこういう男。

中盤の関(松村来夢さん)との初めての行為のあとのやりとりとか、友田さんは上手ですね。

ちょっとぶつかった時の大げさな痛がり方でナチュラルに相手の女の子に罪悪感を感じさせて丸め込む感じとか。

うわ~~~ってなりました。脚本も上手い。作家さんや友田さんは経験がお有りなんでしょうかね?

そのくらいナチュラルというか、「ありそう」と思ってしまいました。

恋敵(?)のアラジンこと新井(髙橋来人さん)も素敵でしたね。

この男もねぇ。

なんか共感するとみじめになってしまいますね。

作家性の違いもあって内心嫌いな先輩に惚れた女取られてしまって、でも体裁とか気にして具体的なアクションを起こせない割に

二人になった時は結構ぐさぐさネチネチ刺してきて、あげく自分に惚れてる後輩(小畑華子さん)にこっそり手を出しちゃう。

こちらもいましたねぇ大学の時。高橋さんの演技の、何と言うんでしょう。塩梅がよかったですね。

そして何より桝野(萩尾ひなこさん)の振れ幅が凄い。序盤のしっかりお姉さんから宗教に乗せられていいってからの、

関との感情のぶつかり合い。あそこの女の本音のぶつけ合いの凄まじいこと。

思わずビビってしまいました。

あんな声が出る女優さんだとは最初は想像もつきませんでした。お相手の松村さんとの相乗効果でより濃くて鋭いやりとりでしたね。

素晴らしかった。

萩尾さんは近年福岡の演劇で頻繁にお名前を見るお方。もっと応援して、見てみたくなる女優さんですね。

松村さんは”おちゃめインパクト”という団体の方。座組最年少だそうで。これまた新進気鋭の若手俳優さん。声のよく通る、目で追ってしまう明るいエネルギーを感じます。

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最近は見るたびに推しが増えてしまいますね。

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他のキャラクターたちも個性的で、特にコメディリリーフたちが凄く重要な役割を負っていたと思いました。

物語の起点となる、映画祭の話を持ち込んでくる冠木(テシマケントさん)。

自称演技派女優の丸谷(江越暉さん)。

正直かなり辛気臭くて大きな起伏のないこの物語を、130分持たせたのはこの二人がいたのが大きい。

二人のギャグシーン(きちがいの歌は笑いました)が物語の芯をちょうどよく繋いでいたような気がします。

同じく半分コメディの自然理論研究所の二人(有峰サラさん、立花恭平さん)のシーンも、

笑いを混ぜつつ直前の歌のシーンで緩んだ空気を本筋に戻してくれていたような。

またこの二人のどこか違うところを見てる感が上手かったですね。

作者さんのメッセージ的な部分はミタッチ(涼花さん)の主張に込められていたんでしょうか。

全体通してなにか、結構な思いを感じました。

それが結構生々しくて、やはり実体験だったりするんでしょうか。

なんだかフィクションで済ますにはなんだか…デティールが凄いなと。

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先にも書きましたが、

中身の濃ゆい物語ですが黙ってみるにはちょっとしんどいですね。

俳優さんたちのキャッチボールの上手さでなんとかスムーズに流れた感があります。

この脚本は演じ手によって見やすさとかだいぶ変りそうです。

この本をここまで観れるようにした演出さんと俳優さんたちは素直にすごいですね。

どの方も最近福岡を賑わし始めている若手の皆さんばかりで、

それが一同に会したのを観れただけでもだけでもこの観劇に意味があったように思います。

このメンバーが、後の福岡演劇を引っ張って行くんでしょうか。なんて。

かつて福岡で観た「アームストロング・コンプレックス」みたいな。

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最近この締めが多いですが…

コロナ禍での落ち込みからの回復、またそれを越えたさらなる発展を期待させてくれるとてもよい時間でした。

第2回プロデュース公演も楽しみに待ちます。

また、俳優さんたちのそれぞれの活動も追えるだけ追っかけていきます。

まだまだ楽しみがいっぱいですね。

演劇ラブです。