観劇・感想

観劇感想:「福岡学生演劇祭2022」

会場:ももちパレス大ホール 舞台上特設囲み舞台
チケット料金:1,000~2,500円
上演時間:各演目約30分

公演の説明
2015年より続く、福岡・九州学生演劇の祭典。出場者は全て学生、上演時間約30分の短編作品を持ち寄り、披露し合う。観客、審査員による採点で評価され、大賞を受賞した団体には学生には全国学生演劇祭への出場権が与えられる。今年はコロナなどで辞退した団体があり、四団体で上演された。→公式サイト
あらすじ
各団体ごとに記載

以下:雑感

ものすごくレベルの低い年でした。「学生」で「祭り」だから許されてるけど、単独公演だったら返金要求するレベル。正直どこも全国行かなくていい。

*****
ももちパレス舞台上舞台。今回は囲み舞台でした。2×2間くらいの正方形。黒パンチで化粧されたシンプルな形。高さは1尺かな。段下四辺にスピーカー。四隅に昇降用の段がある。一辺ずつ向かい合うように客席も4ヶ所。1ヶ所に8〜15席ほどのパイプ椅子。色々変更があった今回ですがしっかりお客さんも入ってるようだ。

スムっと:『a Bruschetta』

作:首藤誠人 演出:米徳優里恵
団体紹介
初めまして、「スムっと」と申します。演出したい人が脚本書く人を誘って、最小限の計画で申し込んだその日が結成日。メンバー集められたことに一安心して今に至る。大橋を拠点に活動します。
あらすじ
高校の同窓会の二次会。懐かしの男女4人での宅飲み。自分と他人の理想と現実を見比べくだを巻く。
キャスト
首藤誠人 福田幸人 山田杏奈 米徳優里恵

以下、雑感
辛気臭い。話も絵面も。とにかく舞台が暗い上に座り芝居で囲み舞台。声も小さくて常にフィルターかかってるみたいでただ見てるだけで嫌な負荷がかかる。中盤の賑やかなキャラ紹介が本筋と絡んでなかったように思える。

*****
センターにミニテーブル。片隅にテレビ。扇風機。24歳。高校の同級生たちの同窓会帰りに集まった4人の二次会。それぞれ仕事は順調?のようだが何かしら抱えている。ここにいない元同級生の華やかな姿に、鬱屈したそれぞれの思いが溢れ出てくる。

*****
囲み舞台のよくないところが出てた。扱い切れていなかった感じだ。スタートから全員中央囲み状態で役者の表情がほぼ見えなかった。中盤からは完全に一方向を向いてしまってずっと背中だけ見てる人もいたのではないか。”顔が見えない”ということが思ったより観客のストレスになること。観客は思ったより顔を見たがってるということをわかったほうがよさそうだ。演出的にも終盤は動きもなく、もはや舞台上を観ている必要がなかった。全員ハケて声だけ出していても成立していたと思う。
「宅飲みはテレビつけたら終わる」なかなか気の利いたセリフだと思いました。本当に芝居も終わりましたよ。ある意味。
*****
公園の告白の覗き見は面白かったが間伸びがよくなかったように思う。ここ!ってところを大体外されたような感。

*****
人生で葛藤が生まれる時期って色んな山場がありますが、卒業して就職2年目とかちょうどそんな時期。悩みがリアルに想像できて共感性が高かったかな。

劇団テスカトル:『使命』

作/演出:Shion.AK
団体紹介
こんにちは、劇団テスカトルです。私たちの劇団は九州産業大学の演劇研究部が 2022 年より発足した劇団となります。世の中に対する主張、表現を胸にこの劇団が存在します。
あらすじ
災害で妹を亡くした兄(山村春音)がその裏に隠された秘密を明らかにするため、とある人物たちを監禁する。
キャスト
鮎貝蒼 徳島秀一朗 朝霧淚 朝倉和 二上諄也

以下、雑感
いやオナニー演劇ですわ。作家の自意識が強すぎる。めちゃくちゃ勝手に盛り上がる。気取った台詞や演出もいいけど感情の流れが不自然で観てられなかった。なんも知らん中学生のオタクが作ったような芝居その2。主張や気持ちが強いのはとても大事だしすばらしいことですが、こちらに伝える意識・技術が足りていなかったように思えました。

*****
黒い囲み舞台を白布ですっぽり覆う。45センチ四方くらいの正方形の白いキューブがひとつ舞台の一角に。

*****
物語は雨音から始まる。過去の豪雨災害で死んだ妹が、何者かに殺された(勘違い?)と考えた主人公が一年後、関係者を一部屋に監禁して犯人探しをする。しかし実は妹は完全に事故死で主人公である兄はそれを受け入れられず凶行に及んでしまった。刑事に諭され、最後には全て受け入れ手向けの花を供える。みたいな。

*****
導入はすごく良かった。めちゃくちゃ面白い演劇が始まるんじゃねぇか〜〜〜??と思いましたがそんなことなかった。独りよがりがすぎる。その割に設定の細部が雑だし、雑さを押し切るパワーもないため違和感(ツッコミどころ)が残り続けてもう駄目。この手のシリアスにおいては致命的だ。登場人物全員アホに見える。まずあの部屋?何?ソリッドシチュエーションぽいのに設定はふわふわ。部屋も込みで妄想だったのかな。わからん。

*****
その時の観客の理解度を考えていない。そして“作家とキャラクター“で半端に状況を共有してるから、チャプター飛ばしたかってくらいポンポン進むんで置いていかれる。本当にあんな状況になったら描いたような動きをするかなぁ?尺がなかったとかは無しで。キャラクターが動いて物語が展開するのではなく、物語の展開のためにキャラクター動かしてるので無理筋がすぎる。筋が通らないと違和感になって共感も没入もできないんですよね。終盤の藤原竜也のパチモンみたいなシーンはもうまともには観られなかった。そして作者にとっての肝のシーン以外がちょっとおざなりかも。今回特にどこもそうですが暗転や場転への意識が薄い。自分の言いたいこと“しか”見えていない感じなのも辛い。内に秘めてるものは伝えようとしてほしい。喚き散らすのではなく。

*****
あとこれは賛否あると思いますがカーテンコールの礼はしっかりした方がいい。芸事として。俳優全員消えた上に、演出さんが奥からひょいときて首だけで「チース」みたいなのはちょっと唖然としましたね。拍手するタイミングもわからんし。

ギムレットには早すぎる:『ひとり』

作:岡部竜弥 演出:下沖悠人
団体紹介
集会を経た村岡と下沖が発起人となり松永、玉城と共に2021年4月に結成。その後佐賀から山下を拾う。「なくてもいいけどあると少し楽しい」演劇体験のためにそれぞれの思う演劇の可能性を全員で探求している。
あらすじ
長あぁぁいこと走っています。面倒ごとから逃げ出すために、受験を乗り越えるために、あのひとに想いを伝えるために…。長あぁぁいこと走っています。
キャスト
山下万希

以下、雑感
柿喰う客っぽいひとり芝居。やりたいことに演出や演技力が追いついていない印象。技量の低さのせいで「っぽい」ところから抜け出せていない。もっと突き抜けてギムレットの味を出してほしい。俳優さんがイケメン。山Pにちょっと似てる。

*****
大きなダーツの的が描いてある1メートル四方くらいの白布を舞台中央に配置。舞台三方にそれぞれ、黒電話・赤本・なんか白い箱が置かれている。演者の衣装に少し細工してあり、上着を捲り上げると演者自身がダーツの”矢”になる。フレンドパーク的説明で作中二回ほどダーツしていたがなんか…あんまり活きてはいなかった。テーマとの関連性が私には見つけられなかった。

*****
プライバシー皆無のド田舎から抜け出して”ひとり”になるため、上京を目指す高校生。無事東京の大学に合格した彼はイケてる大学生活を送るため奮闘するのだが……最後には寄り添ってくれる田舎の温かさに気付く。みたいな。

*****
柿喰う客っぽい。それに尽きる。の割には動きもセリフもキレが足りなかった。あと単純に声が小さい。俳優自身が思ってるより声色は変わっていないし緩急もついていない。普通の会話劇の延長の稽古のまま本番に臨んでしまったのではないだろうか。演出脚本面も「走る」のか「ダーツ」なのか。象徴する表現を一つに絞った方がいいと思いました。30分という短い尺、今回のスタイルだと観客の焦点は集中させてもらった方がよかった。黒電話や赤本も象徴的に置いてある割にそんなに使われなかったし、もっと俳優の身体一本で突き詰めた方が見応えがあったのではないだろうか。今回は。

*****
色々磨かれてないなと思いましたがめっちゃ可能性を感じます。紹介文や過去のギムレットの作品を見ても方向性というか、色をまだ探っている?定めていないようですね。たくさん遊んで磨きまくってほしい。

ごぼてん共和国:『金が無くては殺しはできぬ』

作/演出:奥大河
団体紹介
九州大学演劇部の有志で建国~ごぼてん共和国憲章~
1. 観客は「ゴボウ」‐リラックスして堂々とした演技を
2. メンバーとしての自覚と責任を
3. 他者を尊重
4. 学食のごぼてんうどんを食べる
あらすじ
探偵事務所を装った殺し屋事務所。お客は殺し屋ってわかって依頼してきてくれると思ってたら、ある日訪れた二組の依頼主からはバッチリ“探偵”の依頼。しかも依頼人同士で探り合っていて…
キャスト
坂口萌香 鈴木来知 瀬口愛奈 他

以下、雑感
ひどい。なんも知らん中学生のオタクが作ったような芝居。“演出”とか知らないのかな。九大の演劇部レベル落ちたんだなぁ。目が覚めるほどのイタい時間でした。

*****
舞台は特に飾りなし。真ん中に丸いすが置かれている。囲み舞台の一角が事務所のドアになってるようだ。

*****
めっっちゃくちゃ下手。いやこれは下手っていうか何も知らないって感じだ。演劇の作り方何も勉強せずに脚本のセリフを喋ってただ並べただけ。ていうか勉強の仕方も知らないのかも。ベースの会話がド下手くそなのもさることながら、・余計なセリフが多すぎる(執筆時に読んでみてないな多分)・暗転多すぎる(そんなに集中してみてくれないぞ)
・場転も工夫がなさすぎる(30分しか時間ないんだから無駄な浪費しない方が良い)
・会話のテンポが悪すぎる(自分たちが普段触れてるアニメとかドラマとかは本当にそんなにタラタラ話してた?)
・「殺し屋よ?」っていうセリフの痛々しさに気づいてくれ。ただただ吐いて成立するのは二次元だけなんだよ…。殺し屋でもいいけど工夫して…
・ドア開ける音入れるのか入れないのかハッキリして・照明変化の意味がわからないしあからさますぎる。
とか諸々ツッコミどころ満載というか、小学生が社会人の部で張り切っちゃってる感じだ。九大演劇部ってどんなシステムなんでしたっけ。キャンパスで全然違うのかな。かつて何度か観た九大の芝居って結構面白かった記憶がありますが…。伝達とか上手くいってないのかな?コロナで断絶したのかな…

*****
一番まずかったのは「空気」ですかね。芝居なんて全部そうですけど、コメディは特に空気が大事。もうずっとガッチガチ。本人たちは笑いどころのつもりなんでしょうがもう全然。観てて辛くなる。笑いって面白い文章だけじゃ生まれないから…。演劇では特に。

*****
兎にも角にももっと、もっと演劇観てきてほしい。そして自分達を客観視してほしい。同年代のメンバーがしっかり集まって一つ芝居を作れるなんて実はかなり貴重な時間かもしれません。年配の余計なお節介ですが。この祭りの後ってどうなるんだろ。可能ならみんなでサポートし合ってくれると嬉しいですね。

*************************

どの団体も囲み舞台を活かしきれていない印象です。なんで囲みだったんだろう。

恐らく選ばれるところは決まってますが他の三つに比べたらマシというだけ。私の採点はハッキリ言って消去法でした。大学生演劇って今はこんな感じなんだなぁ。コロナ禍で部活や稽古も以前とは大きく変わったことでしょうし、この低迷具合も無理からぬこと。また盛り立てていくのも大変ですね。

この”祭り”は発表会なのか、品評会なのかなんなのか。一応全国への推薦をかけて競ってるのではないのか?他所より面白いもの作ろうとかそういう意識はないようでしたね。団体の紹介文を読んでも、どこも自意識が高いばかりで人に見せるものだという感覚が薄い気がしました。いくら学生演劇とはいえ1円でもお金を取るなら最低限果たさなきゃいけないラインはあると思うんですが、みんなどういう考えで芝居つくってるんでしょうか?学生に求めすぎ?

来年また期待します。