作/演出:上野直人
会場:甘棠館Show劇場
チケット料金:2,500~3,000円
上演時間:約120分
公演の説明
福岡で昨年結成した、劇団テンペスト。のメンバー上野直人氏の個人企画『藍色企画』のプロデュース公演。
あらすじ
─わかってた。いつだって大切だったのは、あなたでした。─
高校卒業後、ふとした出来事からインスピレーションを受け、短編小説を書き上げたことをきっかけに小説家になった秋(しゅう)。しかし28歳となる現在まで、常に髪はボサボサ、暗いオーラを纏い、人生に何の張りもない鳴かず飛ばずの売れない作家。次回作のアイデアすら湧かない平凡な毎日を送る中で中途難聴障害を持つ女性あきと出会い、親友の加賀から執筆の後押しを受けてから少しずつ運命が動き始める。恋と愛と夢。何をしたいのか。何をやるべきなのか。生きていれば誰もが抱える人間ドラマを心で繋ぐ物語。訪れる未来を受け止める力を与える作品である。※公演チラシより
キャスト
野々口峻 松浦京佳 田中文萌 鳥野まる 林純一郎 中野勇助 内田好政 松村来夢
以下:雑感
かったるいうえに、ま~おもしろくない演劇だった。公演全体に”気持ち”の主張が激しくて邪魔過ぎる。おかげで印象が子供が一生懸命作った工作みたいになってた。大人の創るモノとしてはもはや痛々しい。
言いたいことはクドいくらいポエミーに出てきたからなんとなくわかった気がするが、右往左往する場面転換と余計な飾り文句が多すぎて結果よくわからん。作家の自己投影がされすぎていて登場人物たちの倫理観がヤバい。
「あーこういうの好きなんだろな」という気取ったセンスはビカビカに光ってるが、いかんせん演出や構成などの調理が未熟。音周りのセンスはマジで無かった。旗揚げ、初脚本演出と考えれば伸び代と捉えるべきだろうか。主人公はクズ。しっかり生きろ。
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劇場は甘棠館show劇場。5〜60席くらい。満席。真っ黒な舞台に白化粧が施された装置がいくつか。シモ手にテーブルと長脚の灰皿。喫煙所かな?カミ手には長机とパイプ椅子が2脚。受付?センターには落語の高座くらいの小上がり。上にソファー、テーブル。高砂?もしくはリビングのよう。全体的に葬式場のようなイメージ。
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「全然書けない小説家志望のクズ男だけど何故かみんなにモテモテで一本書き終わるまで」の話。いやホント突っ込みどころが多いのよ。物語に。雑に書き記す。
しゅうくんの言ってることマジで全然わからなかった。ぐずぐず言ってないで書け。働け。浮気性で怠け者の親不孝者がグダグダとモラトリアムを引き延ばし、小説家を名乗りつつも数年ぶりに一本書き上げただけでやり切ったテンションでどや顔で独り言つ。そしてそれを晴れやかに受け入れる周囲の人々。端的に言ってイカれてるし気味が悪い。自我はないのか?もしくは洗脳状態か弱みでも握られていないと納得できん。イイ音楽を流して感動風にしているが(これがめちゃくちゃ多い)、言動と出来事だけ並べたらかなり救いようのない主人公ですよしゅうくんは。こんなこと書くのもなんか恥ずかしいですが、才能皆無の太宰とかいたらこんなかも。ほんとに人間失格だ。
何が人々にそうさせるのか。よっっっっっっっっっっっっっっっっっっぽど最高の小説を書くのだろうか。しかしあらすじによるとまともに書いたのは高校卒業後の″″″″″短編″″″″″″小説のみ。下手したら丸10年なんも書いてない。少なくとも作中ではわからなかった。そんな人間を「小説家」だと信じて応援し続ける恋人や友達。私が関係者だったらとっくに見放してるし、なんならボコボコに引きずり回してやめさせてる。「俺って人間かなぁ」じゃないんだよ。君は人間だよ。ダメ人間だよ。たわ言言ってないでみんなに謝って働け。
ず~っとグズグズグズグズやってるだけで何に共感したらいいんだ。終盤何が原因で何を吹っ切れて書き上げたのかホントに理解できなかった。同棲してた恋人に浮気バレて喧嘩していよいよ後が無くなっただけじゃない?なんで覚悟決めたみたいな爽やかな空気なんだ?弟に「がんばって」とかなんとか言ってたけどどの立場から?なんかもっと確執ある感じだったじゃない。疑問符が凄い出てくる。
今時原稿用紙にペンで書いてるのか?加賀くんもあぶく銭が入って何をそんなに喜んだんだろう。自費出版させるつもりだったのかな。10年仮に小説家だったんなら出版社とも繋がりあったろうにあそこの応援(?)の関係性もわからん。作家気取りのクズ男とギャンブル依存の人で類友だったのかも。
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恋人のしおりさんも何がよくて一緒に居たんだろう。明らかにペンを取ってない時間の方が多かったろうにその上浮気してるのにあのエンディングはマジで解せねぇ。10年の年月を考えたら全身の骨を砕いてから窓から放り投げてもおつりがくると、ていうか私ならそうしてますね。しおりちゃんは聖人なのか。
しかしシュークリームがどうたら、付き合ってきた年月を感じさせないんですよね。ホントとってつけた”恋人役”って感じの人物だった。浮気相手のあきちゃんとかなんの印象にも残ってない。”浮気相手役”。
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作家の自己投影が強すぎる。しかもそれがキャラクター「全員」に乗っかっていて結果凄い不自然。全員が一人の代弁をしてるようなもんですから掛け合いになってないんですよね会話ややり取りが。おかげで行動にブレーキをかけたり違和感を持つ人間が出てこず全てしゅう君に都合の良い世界。気持ち悪かった。
これら全てが作家志望の内面世界で実は誰もいなかった。とかならまだ観れたかもしれない。稀によくあるやつ。
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余計なキャラや設定が多すぎる。主軸から離れたパートに尺かけ過ぎだし、おかげで余計な修飾語の雑ポエムがそこかしこに挟み込まれる始末。
弟、バイトリーダー、有名作家は存在ごといらなかった。本筋に絡んでないし。あと準ヒロインの難聴設定。本筋に絡んでないし。友達のホスト設定とか弟の感情とか。バイトリーダーはどういう経緯で知らん人の墓前に煙草置いたの?もう怖いんだけど。なんかエモい事したかったんだろうなというのだけ透けて見えてもはや腹が立った。
なんか全部、あんま意味ないけど無視するには大きいって感じですごく邪魔だったな。要素は置いたら片づけなきゃでしょう物語は。本筋に集中させてくれ。
この脚本は何稿書いたんだろう。あまりブラッシュアップ出来てない印象です。
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物語としては一旦置いておいて。演劇の演出としてもちょっと困ったなぁという感じ。
・場面転換が細かくて多すぎる。時間やシチュエーションが一見してわかりにくかった。
・シモ手のテーブルはなんだったんだ。男二人で横並びに座るような飲食店ある?”演劇”の為のセッティングでリアリティを損ねてるのでは。
・終わる終わる詐欺。「ガーデンスケイプ」の広告くらい全然終わらない。一回盛り上げて暗転したら終われ。
・後半謎の暗転が多すぎる。ホントに謎。明転しても何かもの増えたりしてるわけでもない。
・音響がシンプルに下手。下手。ぶつ切り。終盤に何回クライマックス持ってくるんだ。選曲のセンスもなぁ…。
・仲たがいした二人が同じ方向にハケたりとか。歩みの一つ一つに意味が出ると思うんだけど。
・何人かイントネーションがおかしかったりキャッチボールができてなかったり。この手の会話劇ではなかなか致命的。
・イイ感じのJ-POP流せば感動シーンになると思ってる節があるな…。
とかとか。書ききれないな。
なんかこう。作家さんの見てきたものとか経験を素材のまま重ねたような感じで一個も洗練されてないんですよね。化学反応が見たい。
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前説後説くらい練習しといてほしいというかいらないこと言いすぎ。どうでもいいんですよ作り手の入れ込みは。10分近く開演押してるのにカミカミで”気持ち”話されても困る。ちょっと自分の気持ちから離れた方がいいですねこの座組は。いい大人が金取ってやっていい興行じゃないですよ、このスタイルなら。
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『体温』ってなんだったんだろう。私が感じた温度は芝居の外の、作家さんの生ぬるさだけでしたね。客席は冷えてたし。
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気持ちが強いのは伝わりました。しかし伝わったのは「気持ちが強い」という事実だけ。その中身は2割くらいしか届けられてないのではないでしょうか。色々書きましたが総括して勉強が足りないと思いました。あまり芝居を観ない人なのかな。客入りも評判も上々のようですし、この後の反省と改善、脚本のブラッシュアップがめちゃくちゃ重要ですね。外部の目を積極的に取り入れた方がよいのでは。圧倒的に”他者”が不在していたと思いますこの公演。(変な日本語ですが)
とはいえ旗揚げ第一作。まだまだなんでもできますね。次回作に期待します。とてもとてつもなく拙かったですが期待するだけの素地はあった。かも。