作/演出:そめやみつ
会場:甘棠館Show劇場
チケット料金:1,500~2,000円
上演時間:約90分
公演の説明
過去福岡学生演劇祭に出ていた”演劇ユニットチームドリーム”が名前を改め、”マジカル超DXランド”として旗揚げた公演。
あらすじ
男性だけを殺すウイルスの発生により、女性だけが生き残った世界。科学者の灰原ジャコは、女性の幹細胞から人工精子を作る技術を開発し、人類の滅亡を防ぐことに成功する。しかし、研究は未完成で新生児の約半数が死亡してしまう。医学生の赤星ユウを含む研究チームは、飼育している豚の細胞を研究することで、新生児の死亡率を下げる方法を模索するが、偶然にも、男性だけを殺したウイルスの真相を知る。真相を知った彼女らは、この世界を変える力を手に入れてしまう。
※公式サイトより
キャスト
池田千春 沢見さわ 溝越そら 薔薇園花江 松永檀 风月 清水理絵(声の出演)
以下、雑感
めっっっちゃ良かった。とても質のいいちょいグロB級ディストピアムービーを観た後のような充実感。ストーリーや構成、人物描写が練り込まれている一方、ゴリ押すところは「そういうもんだ」の勢いで押し通す力強さも好きだった。爆発オチなのも最高。旗揚げでこれは(実質違うかも?)今後に期待大すぎる。
みんな見てほしい。
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甘棠館show劇場の舞台と客席を分けるように間口いっぱいの赤い網が張ってある。スズランテープかな。シモ手側に演台、上手にベッド。のような箱。どちらも黒化粧してある。入場時に赤いテープを手首に巻かれた。チケット代わりだそう。
網を境に舞台上は研究室。客席側は豚小屋、またはライブ会場。場面の表現のために装置や空間を目いっぱい使って表現していて楽しかった。
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生っぽい質感の会話とそれぞれの等身大の思惑が交錯していく様子が負のワクワクを感じさせる。楽屋裏のヤな会話を俯瞰して盗み聞きしてるような気分にさせる。芝居と観客席の距離感がちょうどよく、適度な俯瞰と没入感が心地よかった。
赤い網が物理的な隔たりとなって心理的距離感を生んでくれてたかも。視覚効果?グロい表現にものめり込みすぎずに済んだ気がする。
やりとりの飾り気のなさも常識がすっかり違う世界なんだなと感じられてよかった。
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人物それぞれがブレずに自分の欲求や目的に向かって芯がある人たちで好きだった。役作りはしやすかったのでは。マイナスに深まるので消耗は激しそうだが。演じてて楽しいだろうなー。
警備員の方の衣装は造られたんでしょうか。あれはキャストさんのビジュも相まってとてもカッコよかった。
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途中「豚=男」なんじゃね??と予測させられるところはありましたが
真相判明後のキャスト陣のリアクションにリアリティがあったが故でしょうか。観客側も生理的嫌悪にしっかりリンクできたので先が読めても全然問題なかった。というか、
作中での徐々に明らかになる真実の理解度が、キャラクターたちと共有できていたからかも。序盤から丁寧な布石を散りばめられていたのでもう一回見ることがあったら探してみるのも楽しいかも。グロいけど。脚本構成力、というか人物と出来事の組み立て方が上手いのかも。プロットの段階でかなり練ってあるのではなかろうか。
・お母さんが呼んでる名前が実は弟。
・妊婦の半分は精神病む→半分は男(=豚)
・豚から採取してたのが実はダイレクト精液採取だった。
とかこの辺エグかったな。特に産んだ子供が豚だった時の母親の視点はいかほどのものか。
新世代の常識が丸っと刷新されるのにかかる年月はいかほどのものか。まぁでもコロナ禍などを経て、世代間で常識とかイデオロギーとか分断起きてるところもあるし。そんなにかからないのかな。教授の年齢とかから想像するに2.30年だろうか作中で。その上で自分の半分が知らない豚(=男)から出来てるとかキモいとかじゃ表せない。
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時系列もそうだけど、実際一斉に男全員豚にしたら、システムとかはちゃめちゃになって文明滅ぶし。ほんとのほんとは天使様だけじゃないんだろうなーとか。わかった上で協力してる女もいるんだろなーとか。
描かれてないあの世界の歴史とか想像するのも楽しい。野暮かも。
人物総じてなんとな〜く「下向き」なのも好きだったな。退廃的で。ビバディストピア。嫌だけど。
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ジェンダーうんぬんは。私自身もたくさん考えて答えが出ませんが。(そもあるのか?答え)
どうすれば”尊重”することになるのだろう。女性らしさ男性らしさよりも、自分らしさを偽らずにいられればよいのだろうか。しかし身体の機能的な違いは間違いなくあるし、そこに根差した欲求や感情、偏見は無視できないし。
終盤、洗脳明けの男たちから仕返しされてしまうことが真っ先に頭に浮かぶのも、自分の中にも自己の利益のために他を害する欲求や可能性があることに薄っすら気づいてるからだと
まずはおのれの形をしっかり自覚してたい。その上での対話が大事?でしょうか。エデンはどこだ。
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いやホントよかったな。旗揚げはほぼ義務感で観るように努めてますがこれは大当たりでした。創作者の見えないエネルギーが空間に満ちていた気がする。
ジャンル的に万人ウケは難しいかもしれないがこの構成力、創作力なら舵取り次第でどこでもどこまでもいけるのではないでしょうか。
マジカル超DXランドの今後に期待、大!!次も絶対観ます。