作/演出:上野直人
会場:甘棠館Show劇場
チケット料金:2,500~3,500円
上演時間:約105分
公演の説明
劇団テンペストの内部ユニット、藍色企画の第二回公演。
あらすじ
母親が出ていって20年。父親が死んで13年。人間として見られなくなって3年。許した長女。許せなかった次女。帰ってきた長男。舞台は2014年。他人の目や声への注目が集まり出した時代。父親の13回忌を終えた沙耶香と莉子。沙耶香は区切りをつけるため実家を無くそうという話を持ち掛ける。そんなとき、10年前に家を出た長男拓斗が帰ってきて…
※チラシより
キャスト
大幡華子 野々口峻 田中文萌 顎爺Fujisaki 古澤大輔 Kz 有森楓 木嶌涼乃 木本一成 ハイクオリティたかし
以下:雑感
旗揚げから明確に進化して見やすくなっている。前回の痛々しさや尖りがちゃんと”作品性”になっていた気がする。
内容はまぁ…面白くはなかったけど、前回から約一年。しっかり進歩していてなんか感動してしまった。変わらず独りよがりなきらいがあるけれど、このスタイルも突き詰めれば傑作が生まれるのか。まだわからない。
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舞台は甘棠館。全体的に黒いイメージ。パンチ張り。カミシモ奥に小上がり、上に椅子。センターにはテーブル、囲んで椅子が5.6脚
?全てに黒い布がかかっている。センター奥のみホリ幕が開いて白壁が覗いている。(終盤灯りで檻になる)センターシモ手側に抽象的な絵画がキャンパスに置いてある。(宇宙っぽい?なんのイメージかな)
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物語は2014年。父親の暴力によって崩壊していた家族。母親は逃げ、三人の子供たち(姉・兄・妹)は父からの暴力に耐えながら日々過ごしていた中父が転落死。事故ということで処理されたものの世間から事件性を疑われあらぬバッシングを受けてしまい、兄はそんな家族を捨てヤクザになってしまう。父の十三回忌に終えた物語開始時、暴対法改正によってヤクザへの締め付けが強くなった昨今。身内にヤクザがいる(兄)という噂がさらに拡まって二人はさらに肩身の狭い思いをしながら過ごしてきた。そんな中兄が組抜けして戻ってきて、「家族」のありかたを問う。みたいな。血縁のある「家族」と、盃を交わしたヤクザたち。この家族を見守る捜査一課の刑事。利益のために記事を書く記者(情報屋)なんかも絡んできて、なんとか普通に生きようとする家族と放っておいてくれない周りや世間のどうしようもない現実が〜〜雑にまとめるとこんな感じのお話。
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旗揚げ時よりもぐっと観やすくなった印象。寄り道が減ったおかげか。とっ散らかっていた前回よりも“演出”がちゃんと機能していた気がする。
しかしながらず~っと4速くらいのギアで吠えてるから不安になるな。人間いきなり叫ぶ人には共感できんですよ。おかげで舞台との距離がすごく遠かったな、狙ってのことならいいけども。没入はできない。観客を、あの家族を遠巻きに見ている「世間」とリンクさせてたのかな。そういう意味では上手い手法だったのかもしれない。わからんが。
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説明台詞がテンコ盛りなのに肝心の過去のことがどうにも整理がつかない。雰囲気ではわかるんだが…。20で10で三年前で十三回忌で…?なにがいつ起きていつ世間から色々されて拓斗はいつからいつまでなにしてて暴対法が4.5年前?こんがらがりました。
みんな全力怒りボイスで叫んでるから何に悩んでるのかもイマイチ。わからん。いやホント雰囲気ではわかるけども。気持ちを台詞、言葉で”説明”ばかりしているからというのもあるかも。全部喋って浸ってるから「浸ってるなあ」としか。実写版るろ剣のラストみたいだ。
冒頭からテンションがずっと荒波くらい高いから、「お兄さんが帰ってくる」という転換点で起きる波も全然活きてこなかった。ベースのテンションの高さにまぎれてしまって事件性が感じられなかった。その結果中~終盤にかけて起きる出来事すべてに唐突感があって入り込みづらい。もっと物語的、演出的に”凪”の部分が必要なのでは。緩急。おかげで数少ない刑事さんのギャグも流れてしまっていた。勿体無い。
肝心の拓斗が不動すぎたからかなぁ、魅力がなさすぎて。姉も妹も兄貴も川上も、みんな拓斗を軸に動いてるのに一人相撲だった。拓斗の何がそんなに引き付けるのか。ホントにただ帰ってきただけで、能動的に事を動かそうという気が全然ない。姉ちゃんも妹も何年経ってもあんなに抱えてるのに当事者の拓斗に覇気がなさすぎる。捨ててしまった家族をやり直そうと戻ってきたのかと思ったが。こいつ親父が生きてる間どんな気持ちでおったんや?姉貴や妹がぶっ叩かれてて、姉に至っては性暴行受けてたくさいのにホントにただただ帰ってきただけ?別にそんなキャラでもいいけど最後まで、人が死ぬまで全然変化なかったな。人格ないのか?もはや不気味だった。作中で他人から影響を受けろお前は。ヤクザやれなくなったから戻ってきただけやん。そりゃどうしようもないわ。
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序盤から中盤はなんとか観れたけれど終盤の各キャラの行動原理というか動機というかが全然腑に落ちなかった。姉ちゃんはなんで兄貴刺したんだ?情報屋を仕留めるならわかる。川上が最後けじめ付けにいったのもわかる。でも姉が兄貴を刺したのはわからんかった。「家族」から拓斗を奪った元凶として憎んでいたのだろうか。ヤクザがいるから家族が壊れたから?それは法律変わってからだし、原因はクソ親父だし。そも弟は自分で家族捨てて極道になったのでは。だめだ。ふわ〜と感じれば、まぁ…刺す、か???いやなんで兄貴刺したんだ。スッと飲み込めた人がいたら教えてほしい。
やっぱりキャラが全員作家の代弁者でしかなく、それぞれが生きてる感は薄かったな。みんな共通のクラウドから語彙を引き出してる、同一人物の別側面って感じだ。この辺は前回同様か。創作においての大きな関門の一つでしょうか。
ベースが1人だから立場が全然違う他人も気持ちで動いちゃうんだよな。特に婦警。警察の仕事を嘗めすぎでは?職業倫理とかグズグズ。ちょっとリアリティなさすぎた。捜査一課ってそんなに暇ないだろ。婦警がダメすぎてもはやムカついてた。よく警察学校でれたな。
ホントになんで兄貴刺されたの?????
ほいで最後2人自決したのもわからん〜〜。姉貴が出てきたら死ぬぞ。自分のせいで2人とも死んだと思うだろ。前述の諸々の理由でそこまでするほど追い詰められていたのは見えなかったんですよね。自決って相当ですよ。私の読解力のせいかなぁ。なんで兄貴刺された?????
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会話のテンポが速くて役者の会話力が付いてきてなかった。ほぼすべての台詞がスルスル滑っていって入って来ない。古澤さんくらいかな。身構えずに言葉が入ってきたのは。おかげで全員下手に見えた。
おそらく文量と尺の関係でペース上げていったのかなと予想するが、もっと配分を整えればもっともっと刺せたんじゃなかろうか。緩急。
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頑なに父親からの性暴行(?)だけ濁してくるのがよくわからんな。あんなに終始大騒ぎしてるのになんの冷静さなんだ。作品外のブレーキが感じられてしまう。
それだけでぶっ壊れてしまうくらいの打撃だと思うんですがそこは乗り越えてる、というかあんまり重視されてないのが違和感。された姉ちゃん知ってた弟妹も正気でいれないでしょうに。いっそそんなとこ差し込まれない方が良かったな見てる側としては。いや、私の深読みか?
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情報屋の人、小栗旬のモノマネの人に芝居が似てますね。この人だけ造形がヒソカくらい漫画してて微妙に浮いてました。役割的にちょうどよいのか?
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主宰さんの前説後説は「明日死ぬんか?」ってくらい熱量高くて痛いけれど、しっかりブラッシュアップされた今となっては作品に真摯に向き合う素直さの表れなのかなとか。好感が持てました。
いや、めちゃくちゃ勝手なこと言ってますけどね私・・・。
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絵は分からなかったな。抽象的な「なんかエモい」は感じた。劇的な効果を出すには作中での扱いが薄かったか。
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観るのにすごく疲れるし、相変わらずあんまし観客を向いてる芝居ではないけれど、これも一つの演劇の多様性かと思えるくらいにはまとまってきていたと思う。どんどんパワーアップして表現を突き詰めていってほしい。
しかしこの劇団(チーム?)は「劇団テンペスト」なの?違うの?よくわからないな。どこを応援したらいいんだろ。