作/演出:田崎ヒサト
会場:鳥飼倶楽部
チケット料金:2.000〜2.500円
上演時間:約90分
公演の説明
窮屈な毎日に風穴。劇薬シアター。福岡の演劇団体「海月の骨カンパニー」の第8回公演。本来は昨年のオリンピック中止(延期)に合わせて上演する予定だった演目だそうです。
あらすじ
キラーウィルス「ペルソナ」のパンデミックから20年ぶりのオリンピック。日本での開催に沸き立つ国民。熱気の後ろで静かに執行を待つ死刑囚。
もつれた運命の糸がほどかれ、再び繋がる。
そして冬の森に、鶯の声が木霊する。
キャスト
こじまゆかこ 大谷豪 イモトサチエ 稲益康朗 中村豪志 中山ヨシロヲ
以下:雑感
登場人物たちの言動や作中の道理が、自分の心情とことごとく合わなくて生理的にキツかった。
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劇場は福岡の鳥飼にある「鳥飼倶楽部」。
公民館のような建物で結構年期が入っている。主宰の方によると、この地域の有志によって維持されている創立100年ほどの建物らしい。
演劇以外にも様々なお稽古ごとに使われているらしく、語り口から愛着が感じられて良きでした。
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舞台はこんな感じ。
奥にある鶯のレリーフがいい感じ。最初の印象では裁判所かなって印象でした。
ハケ口は舞台上のカミシモと、客席をぐるりと回ってのカミシモと計4箇所。
結構しっかり建て込まれた立体的な舞台でした。
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金物屋(彫金師?)の親子が住む森の中では年がら年中ウグイスが狂い咲き、ならぬ狂い鳴きしている。
父曰く、森を挟んで向かいの形状で死刑が執行されるとウグイスが人鳴きするという。
キラーウイルス“ペルソナ”のパンデミックから20年後、今年は20年ぶりのオリンピックが開催される。
父は20年前のオリンピックで金メダルのデザインコンペで勝ち抜いたが、ウイルスによる大会の中止で日の目を観ることができなかったと言う過去を持つ。
オリンピックを観戦しつつ仕事する二人。
森を挟んだ向かい側にある刑場から“絞首刑のロープを留める留め金”を作って欲しいと依頼が来る。
どうやら死刑執行中に金具が破損してやり直しを待っている最中らしい。
最初は難色を示す娘だったが、かつてその留め金を作ったのが自分の父だと知り、興味を持ち始める。
死刑を待つのが自分の本当の父親とも知らずーーー、
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舞台設定や人間関係は、和風の御伽噺やサスペンスドラマを思わせてとても興味深かった。
ちょっとダークな雰囲気も好きでした。
しかし、もはやありふれてしまったコロナ批判演劇。当日パンフにもありましたがやるのが一年遅かった感。
この時期に演劇を打つ、打ってくれるのは観客としてとてもありがたいが、まだこんなこと言ってんのか感は否めない。
作中「なんでそんなことするの?」という疑問符が常に頭に出てきてしまって没入できなかった。
テーマとしては親子の絆とか、先述のウイルス関連の何やかんやというか…。
雰囲気はすごくあるんですがそれは無理筋やろってなることが多くてダメだった。
そもそも絞首ロープの留め金ってなんだ。最後首吊りシーンリアルに持ってきてたんですが、あの感じやったらあのパーツいらないでしょう。
どこに力が作用してるんだ。
それとも私が知らないだけでああいう形のパーツがあるんだろうか。
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登場人物の言動の全てに疑問が湧いてしまって無理だった。気味が悪かった。
主人公の女性と死刑囚の男(過去に3人焼き殺している)は実は親子で娘だけがその事実を知らず、刑務所の近くの金物屋の男の養女として育てられている。そして娘は義父を本当の父親と思っているっぽい。(作中のセリフから)
過去が話されていく時、金物屋の男もなんか関係あるのかなと思ったら何にも関係がなくて、ただ件の死刑囚が収監されてるムショから一番近いところに仕事場があるからってだけ。
そんなことある?よく預かってしかも20年も育てられたな。なんで納得して引き取ったんでしょう。謎。
本筋で金具修理の依頼をムショの職員がするんですが、わざわざ娘に頼む理由が、「知らないところで親子で繋がってたら面白くない?」ってだけ。(私にはそう聞こえたんですがどうだろ)端的に言って狂ってる。
そしてそんな理由で依頼持ってこられて受け入れる義父。裏事情は知らず仕事を受ける娘。
金具が当たるところが冷たいから人肌であっためてから使ってね。ってなんだそれ。
「死」にまつわることにも「「死刑」にまつわることにも考えが足りてないのでは。作中でろくに突っ込まれず進行し、執行される死刑。
娘は最後、「うまく機能したかしら」みたいなことをポロッと言うんですよ。
言葉にできないおぞましさを感じてしまって無理でした。
最後は言葉にしないけど親子の絆で繋がって満足(納得?)して処刑されていくんですが、3人殺してるんですけど。
被害者のことは完全に思考の外でやばい。
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作り手の人格と作品の出来を無理に結びつけるのはナンセンスだとわかっていても、作家さんの倫理観のようなものが透けて見えるようで、受け入れ難い90分でした。
ラストなんか、一人の死はどこかで誰かが生まれているということ。ウグイスは「死」を知らせているのではなく「生」を知らせてくれているのではないか。と。
個人的には「死」や「生」を何かと関連づけないでほしい。
それらはそれぞれ単品で完結して価値のあるものと私は信じているので。
なんだかすごく嫌。
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セリフの聞き取れないところが何箇所かあってそれもしんどかったな。特に群読パートが。
ただでさえ乗り切れない話だったので殊更ストレスでした。
もったいつけたウイルス「ペルソナ」関連のオチもなんか無理矢理感があり、カタルシスには繋がらなかった。
終盤も“ここ!”っていう切りどころが何個もあってキレが悪かった。
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私の感覚には全然合わなかったですが、
雰囲気作りや話の構成はとてもよくできていて、演目によって見応えのある芝居になりそうだなと感じました。