2021年製作/106分/R15+/アイスランド・スウェーデン・ポーランド合作
原題:Lamb
配給:クロックワークス
あらすじ
羊から産まれたのは、羊ではない“何か”——
山間に住む羊飼いの夫婦イングヴァルとマリア。ある日、二人が羊の出産に立ち会うと、羊ではない何かが産まれてくる。
子供を亡くしていた二人は、”アダ”と名付けその存在を育てることにする。
奇跡がもたらした”アダ”との家族生活は大きな幸せをもたらすのだが、やがて彼らを破滅へと導いていく—。 ※公式サイトより
以下、雑感
とても悲痛な”世にも奇妙な物語”。あらゆるトピックが前振り無しで襲いかかってきてビビる。でも怖いより不気味が強い。ダシが出るようにじわじわ嫌な感じが高まってくる良作。アイスランドの雄大な自然の美しさと鬱くしさを感じられてとても良きでした。
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すごく静かな映画でした。台詞もすごく少なくて、出来事や仕草から感情や過去を伝えるような演出。荒涼な背景も相まってすごく引き込まれました。裏を返せば集中力が必要で結構体力のいる映画ですが…、中身も相まって。
いきなり時間旅行の話を始めた時は、もしかしてSFが始まるのかと一瞬ドキっとしましたが、過去と未来に関しての認識から夫婦それぞれの「壊れかけ具合」が察せられて、うわっと思いました。なんだか毒みたいな感じさせ方させてきますよね。
異形が産まれて動揺したのも束の間、ノータイムでベビーベッド引っ張り出す2人。かと思いきやトラクターで1人泣く夫。それぞれの心のダメージの深さがめちゃくちゃ伝わってきて辛い。そりゃ母羊も殺すわ。あかんけど。
あの母羊撃ち殺すとこなんかすごいキツいけど心情に納得はしてしまう。しかし羊だからまだ見れたけど人間だったらとんでもない絵面ですな。A24はなんかこういう血族とか繋がりへの執着的なそういうのにこだわりがあるんですかね。毎回描き方がえぐい。負の部分への解像度高くない?
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いや羊たちの演技力よ。オープニングの”何か”の様子がリアクションで伝わってくる。すんげぇ嫌。でも見ちゃう。
動物の演技ってすごいなぁ。どうやってんだろ。人間よりも感覚が鋭いのがわかるからでしょうか。危機が迫ってくるピリピリがより伝わりますよね。
猫ちゃんいつ死ぬのかとハラハラしてしまった。結果無事だったが。犬は悲しすぎる。可愛かったのに…。
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伏線はあったものの、唐突な全裸羊マンには笑いそうになってしまった。急すぎて。これこそ”シリアスな笑い”。
いや、めちゃくちゃ気持ち悪いしおぞましいんですが「羊頭×全裸中年体型×猟銃×草原」の組み合わせがベストマッチでスゴい色になってる。冷静に見たらパフォメット的な悪魔的風貌なんですが、いかんですね。面白くなってしまった。キモ怖いけども!!オープンなミノタウロス。羊だけど。
やはり”彼”が冒頭吹雪の羊小屋で母羊を孕ませたということなんでしょうか。そして仇を討ち子供を取り返したと。なんだか寓話的しっぺ返しストーリーですな。彼もまた遠い昔に人と羊が交わって出来たんでしょうか。何年もこうして血を繋いできたんでしょうか。恐ろしい存在ではありますが、あの土地と同じくどこか寂しさがありますね。
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アダ。半人半羊状態のハッキリした姿は極力引っ張り、いざ丸出しのケツが出た時はかなり悍ましく見えたものですが。章が進むにつれて徐々に可愛く見えてくる。観客の親密度も親子の間の情も高まってきたところで最後。やっぱりモンスターだったんだなとわからせられるのやり口がムゴすぎる。めちゃ、くちゃ操られましたよ…。
よくよく思い返したら基本的に手を引かれるがまま、差し出された草も抵抗なく食べるし”人間”じゃなかったんですよね……。だれも浮かばれねぇ〜〜。
おじさんだけでも無事(?)生きててよかった。行動はダサかったが。
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ホラーよりも奇妙さが際立った今作。前に観た「ハッチング」や「ミッドサマー」もそうでしたが、北欧には独特の生臭い恐怖が似合いますね。いつか行ってみたいものです。夏至の期間は避けたいですが。映画的に。
でもそれだと白夜味わえないのか。悩ましい。
舌の奥が苦くなるような、奇妙で濃い物語でした。とてもよかった。