観劇・感想

観劇感想:福岡・九州リージョナルシアター FPAPプロデュース2021「世界は右側でデキている」

作/演出:幸田真洋(劇団HallBrothers)
会場:レソラNTT夢天神ホール
チケット料金:1.500円
上演時間:約105分

公演の説明
福岡のNPO法人、福岡パフォーミングアーツプロジェクト(FPAP)が主催するプロデュース公演。
脚本・演出に劇団HallBrothersの幸田真洋氏を迎え、福岡のみならず他県からも様々な俳優が顔を連ねる。公演特設サイト

あらすじ
私は右側の音しか聞こえない。だから、右側が世界のすべてだ。
でも、それでじゅうぶん。
大切な彼がいつも右側にいてくれたから。だけど、あの病気が流行り出してから
私の世界は閉ざされてしまった。
彼が左側に行ってしまったから―

キャスト
萩尾ひなこ(SPAKLE PROMOTION) 的野将幸(ITR entertainment)
宮木秀明(合同会社マイフラッグ) 悠乃(劇団トキヲイキル) 
仲千恵(爆裂感乱写) 郡谷奈穂(おちゃめインパクト) 
唐島経祐(劇団HallBrothers) 横佐古力彰(劇団言魂) 
彰田新平(劇団クレイジーボーイズ) 八坂桜子(劇団ZIG.ZAG.BITE) 
松村来夢(おちゃめインパクト) 到生(劇団ZIG.ZAG.BITE) 
林田麻里(LUCKY RIVER)

以下:雑感

楽しくはなかったなぁ〜。それぞれ活躍されてる魅力的な俳優さんが多く、場面映えは結構したと思うけども、プロデュースでこれだけ集めてやることがこれ?という印象。

地味だし「コロナ演劇」も完全に旬の時期を逸している。このプロデュース公演を見て例えば次があった時自分も出たいと思う人がいるだろうか。疑問である。

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舞台は天神警固公園の前にあるレソラNTT夢天神ホール。

客席はざっと見200席くらいかな?8割くらいは埋まっていたかな?

ステージは福岡のとある飲み屋街(中洲かな?)。

舞台をセンターで分けてシモ手側が居酒屋、カミ手側がバーになっている。

カミシモで高さをつけて見た目でっかいジオラマみたいな印象。

タッパが高くて、ステージいっぱいに建てられた舞台装置は迫力があった。

ディテールが細かくて一目で、金かかってんなぁと言うのがわかる。

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物語はコロナ禍(作中では特定感染症とかなんとか言い換えてた)以前の福岡のどこかの飲み屋街。

隣り合う居酒屋とバー。働く人々。バイトとか店長とか学生とか、酒屋さんとか夢見る若者とか。

それぞれに仕事や結婚なんかに夢や目標を抱えて生活する中、突然のコロナ禍。立て続けの緊急事態宣言。休業を迫られる飲食店や大学。

得られたはずの幸福や利益が理不尽に奪われていく中で、行政の見せしめとも思える対策に不満を募らせていく面々。

やりきれない気持ちを時に爆発させ、時に耐え忍び、折り合いをつけながらこの理不尽な現実を生き抜いていこうともがいていく人々のこの2年間の群像劇。

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まず思ったのは「あんまりタイトル効いてなくね?」ってこと。

正直ラストの右側云々の話はこじつけ感がありました。

最初にチラシを見た時は一人の女性にフォーカスを当てた物語なのかと思ってましたが・・・。

これは個人的な考えですが、タイトルと中身の乖離が激しいと「これなんの話なんだ

?」という引っかかりが常に脳内に出てきてしまって、目の前で起きていることに集中できないことがあります。

今回はまさにそれ。

真梨花(萩尾ひなこさん)の病気の問題とそれにまつわる話ってコロナ絡ませなくても十分展開できたと思うんですが、というかHall Brothersさんってそういう、なんというかミクロな問題から生まれるマイナス感情とかを調理していくのが上手な印象を持ってまして。

今回もそういうお話を期待していったものですから、開幕と同時に肩透かしを食らった気分です。

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ていうかもう「コロナ演劇」飽きたんですよ。

始まりから2年経って色んなことが起きて、私自身も様々な変化がありました。

たくさんの団体が感染症を取り扱った芝居を作ってきて色んな思いが渦巻いてきた2年間でした。

正直「今更こんな芝居作るの!?」という驚きの方が強い。

完全に旬を過ぎていると思います。まぁこの題材に対して「旬」なんて言葉を使うと嫌な感じがしますが・・・それはとりあえず置いておいて。

劇中で語られたことなんてもうとっくにみんな考え終わってることなのでは?もう覚悟を決めて進み始めている人の方が多い中で、わざわざ時を戻して擦るような題材なんでしょうか。

助成金を取って人材を集めてそれなりに規模の大きいこの企画。もっと描けること、目指せる高みがあったのでは。

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群像劇でしたが、人数の多さ、劇中期間の長さのせいでしょうか。

メンバーそれぞれが絡みきっていないこと。抱えた問題解決のプロセスやフラストレーションの解消がしっかり描かれていないことがちょっとモヤモヤしました。

岡田(宮木秀明さん)の後悔や雪美(八坂桜子さん)と父(彰田新平さん)の確執、森下(唐島経祐さん)たちの衝突、楠木(松村来夢さん)の憤りなどなど・・・。

それら全て終盤の飯島(到生さん)の叫びで強引に納得させたような感じ。

正直他のみんながどういう風に片付いたのか全然印象に残っていない。全員あれで納得したのか?まぁ問題全部解決しなきゃいけないわけじゃないですけど、そこはフィクションだし。全部スッキリさせて欲しかった。

特に翔平(的野将幸さん)の浮気問題!お前完全に目移りしとったくせに何をしれっと元鞘にいこうとしてるんだ。

ここはタイトルからして主人公(?)の真梨花の問題だしもっと丁寧にしてほしかった。

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飯島の叫びは胸にくるものがありました。

これまでずっと我慢して、もしかしたら登場人物たちの中で唯一葛藤しながらも真っ直ぐ現実と向き合っていた人物なのでは。

あの場面まで自分を抑えていたのも十分伝わっていたし、周囲の人間たちの勝手も相まってカタルシスがありました。

演じた到生さんの熱量をすごく感じたのもあります。

正直眠たくなるような時間でしたが色んな意味でハッと目を覚まさせられました。

好きな場面でした。

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なんだこれと思うようなことが芝居の外でもちょこちょこ。

前説の時間のあれはなんだったんでしょう。作演の幸田さんの語りに合わせてキャストさんたちが舞台上で無言芝居をしていく。キャラ紹介みたいなこと?

物語の序盤でその辺はしてくれていたし、正直まだ集中できていないあの時間に喋られても覚えていられない。

どういう効果があったんでしょう。まだお客さんの移動もあったあの段階、前説の時間ってもっとしっかり伝えなきゃいけない事があると思うんですが・・・。

入場時は結構コロナ対策で色々用意されていた印象ですが、反面退場時はほったらかし。

人数も多かったし当然規制退場とかするものだと思ったのですが特にアナウンスもなく・・・。帰りのホール入り口はごった返していました。

これはどうなんでしょ。こういうもんですか?

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俳優さんたちは皆さん本当に魅力的だったと思いました。

立ってるだけ、喋ってるだけで目を惹かせてくるような方ばかり。

特に遠藤役の林田麻里さん。特に派手なセリフがあったわけではないですが、なぜか見てしまう。俳優さんの地力のなせる技でしょうか。素敵です。

過去見させてもらって推している俳優さんたちも何人も出てまして、以前「ミモココロモ」で拝見した萩尾さんや松村さん。松村さんと同じくおちゃめインパクトの群谷さん。大橋ソレナの八坂さん。などなど。

違った一面良い面も見られて、それだけでもシンプルに良かった。

プロデュース公演のいいところですね。

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色々書きましたが、この規模で企画をやり切ったのは確かに一つの成果であるとは思うのでそこは素直に評価したい。

願わくば2回3回と続いほしいと思います。

コロナや助成金の不支給などでダメージを負っている団体や企画の話もちらほら聞きます。

単一ではなく、広く業界全体の足がかりになってくれることを期待したいです。