観劇・感想

観劇感想:北九州芸術劇場クリエイション・シリーズ「まつわる紐、ほどけば風」

作/演出:岩崎正裕
会場:北九州芸術劇場小劇場
チケット料金:1.000~3.500円
上演時間:約110分

公演の説明
北九州の街から紡がれる、女性の生き方を問うドラマ
劇場とアーティストが2カ年をかけて創作に向き合い演劇作品を立ち上げるクリエイション・シリーズ第1弾「まつわる紐、ほどけば風」。
2020年2月、コロナ禍の影響を受け初日1回限りの上演となったが、キャストもそのままに2年の時を経て再演。

あらすじ
一軒家に義姉と姪の3人で暮らす独身の久代、夫婦で不動産会社に勤め不妊治療に悩む恵、医者の夫と暮らしながら自身の生き方を模索する愛梨。ボルダリングジムで出会った3人は次第に意気投合する。それぞれの環境で生活にどこか孤独や不自由さを感じ、まるで見えない紐にとらわれているかのような彼女たち。いつか爽やかな風が吹く日まで、家族と、時に自分自身と向き合いながら現代を生きる女性たちと、それを取り巻く人たちの物語。

キャスト
内山ナオミ 江﨑萌葉 大野朱美 木下海聖 桜井玲奈
寺田剛史 飛世早哉香 町田名海子 宮村耳々 村上差斗志
岸部孝子 三田村啓示

以下、雑感。

う〜ん、微妙。ちょっとキツかったな。少なくとも私には風は吹かなかったな。
恐らく「女性の自立」的なことをテーマにしていると見えたが、それを語るためにおざなりにしている部分が目立ったように思う。
演出として必然性が疑問な部分も散見され、入り込めなかった。

*****
久しぶりの北九州芸劇小劇場。

舞台は主に4つのエリアに分かれている。
カミ手、中央、シモ手にそれぞれ居間?客間?のようなスペース。それぞれの部屋にテーブルと椅子がある。
カミ手は長脚のダイニングテーブルと背もたれ付きの椅子が二つ。
中央は和室でしっかりとした茶色いテーブルが一つ。畳で椅子は無し。
下手は灰色の2人掛けソファに低いちゃぶ台くらいのテーブル。

それぞれ特色のある部屋が作られている。

三部屋が半円状に配置され、その内側一段下がって何もない平舞台。
場面に応じて装置に組み込まれた椅子(座席っぽいブロック)を俳優が引っ張り出してくる。

それらを囲んで大外に灰色のアパート群。北九州の商店街みたいな雰囲気かな?こちらはグレー一色で文字も無し。煤けたような見た目。
床から天井スレスレまでのみっちり建て込まれている。ちょうど先日観劇した「九十九龍城」を思い出す見た目。
室外機まであるな。作り込みがすごい。

*****
開場曲とか無し。重苦しい雰囲気だ。
鳥の鳴き声とかかピヨピヨ聞こえてる。

物語は北九州のどこか。主に4組のカップル(パートナー)たちとその周囲の人々+女幽霊?のお話。
趣味のボルダリングを通じて仲良くなった女性たちがそれぞれに抱える問題を解消してある者は立ち戻り、ある者は捨て去って進んでいく。壁を登っていく女性の力強さを描いた物語。かな?

古来女は太陽であったが現在では月に例えられる。他からの光を受けてしか輝けない。それに疑問を投げかける、現代での女性の生き方を問うが主題でしょうか。

4組のパートナーはそれぞれ、
・劇団員の妻と医師の夫。夫が不倫して離婚する。(松尾林太郎/寺田剛史さん、松尾愛梨/飛世早哉香さん)
・不妊治療中の妻と不動産業の夫。紆余曲折あって治療を中断する。(白石利明/村上差斗志さん、白石恵/大野朱美さん)
・独り身の女性。俳句を嗜む。鉄道にしか興味がないコミュニケーション不全の男性に言い寄られ、後にデートする。(古賀直子/桜井玲奈さん、田中友也/三田村啓示さん)
・音楽活動をしている大学生カップル。彼女の方が後輩の女の子に告白され、後に付き合うことに。男性はとは揉めたが、最終的には揃って友人として落ち着く。(古賀あかね/町田名海子さん、山崎七海/江崎萌葉さん、大庭蓮/木下海聖さん)

その他大学生カップルの女子の母。(シングルマザー)と、その友人の関西人女性。(古賀久代/内山ナオミさん、小川育子/岸部孝子さん)

独り身の女性の前にだけ現れる着物の女性の霊(?)。(女/宮村耳々さん)

計12人の悲喜交々。

*****
なんだかなぁ。という感じ。

言いたいことはわかる。が、主張したい内容と北九州の紹介演劇だったな。女性が自由に生きるを語りたいがために結構ゴリ押し展開だった気がする。

基本的に無音の重苦しい雰囲気で進行するために息が詰まりそうになる。
終盤コミカル?なシーンもあり客席もクスクスしてましたが、私は和解と離婚のシーンの直後だったのでそこまで自分の空気を持っていけず全然笑えなかった。

笑いの内容もコミュ力終わってるおじさんの行動が面白いみたいな部分だったので尚のこと。これがコメディだったらなぁ。他のキャラクターたちは全然笑えるところは無かったし。
笑いを持ってくる順番って大事だなと思いました。もっと序盤から来てれば素直に笑えたし、相乗効果で他のシーンにももっと入りこめたのではなかろうか。

*****
組み合わせの中でしっかり話し合ってたの、村上さん演じる不動産業のカップルだけじゃなかった?
その他の皆さんはほどいたっていうか、ぶった切っていったような印象です。もうちょっとお互いゆずりあったりとかせんのかね…。

医者と劇団員の夫婦なんかは、「妻が趣味(演劇)をやるのを、理想の妻像の押し付けによって邪魔する夫」みたいな構図でした。
浮気が原因で一発レッドカードはそりゃそうなんですが、あんなに上から怒り続けられるもんですかね。
そもそも夫も生活とか住む場所どうすんのか聞いてたけど、恐らくまともに働かずに演劇させてもらってたわけですよね?昼ボルダリング行って夜稽古してって感じだと。「私はあなたの母親じゃない」的な事言ってましたけども。そもそもちゃんと協力して生活してたのか?
妻だの夫だのの役割をどうこう言うつもりはありませんが、のっけから生活の部分頼りきりのくせにあんなに横柄になれるのすごいですよね。
ラストあんなに晴ればれと壁登って歌ってましたけど、「いやお前ヒモやったやん」と突っ込んでしまった。なんでやりきった感じなんだ。
まつわる紐ってそういうことじゃない。よね?

大学生たちも。木下海聖さんの演じる男子学生が、同性愛者の後輩に向けてネットで拾ってきたような罵詈雑言をぶちまけていて(生産性がないとか云々)、これまた障害に立ち向かっていくパートナーシップ~~みたいな描き方になっておりましたが、
そもそも現在交際している相手がいるのにそこを納得させずにながらで同棲話が出るくらいに仲を深めていくのは端的に言ってクズでは?
少なくとも後輩ちゃんは性愛を向けてきてるわけですからクリアにせずに進めるのはただの浮気でしょうよ。
そこを彼氏に騒がれて迷惑してますみたいな被害者ヅラしてきてるのがかなり不愉快でしたね。

もっと話し合えよと。
そんなことばっかり気になって共感できず。

極め付けは電車男とのデートのくだり。
不法侵入のストーカーのガチモンの犯罪者だし全然ほっこりできなかったな…。
自由な恋愛というか多様性って言うんでしょうかああいうのも。
流石に大らか通り越して危機意識足りなさすぎると感じて引いてしまった。

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一段下がったエリアで時たま出てくる椅子。

アレって閉まっとく必要あったんですかね?最後まで見てたけども置きっぱなしでも支障がないように見えました。
いちいち出し入れするのが正直ノイズになっていて集中が切れる要因になっていたと思います。

今回場転時は完全に切り替えて俳優も転換は転換に徹する形式でしたが、
個人的に、半暗転で姿が見えていて芝居してない状態で椅子に座り→明転とともに演技に入る。という演出にどうにも脳がついていけず。

今回の芝居のリアリティだと客目に入った時から芝居していてくれたらもっと自然に飲み込めた気がする。
キャラクターのやり取りにノレなかった時点で手遅れ感がありますが…。

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同性愛カップル。

和室の卓に腰掛けるな。

すげぇ自然に卓にケツ置き始めたからビックリしてしまった。ベンチじゃねぇんだぞ。
完全に脚本の都合であの配置になった感ありますね。2人の会話の最中に木下さんが入ってきて気づかない〜みたいな構図のために入り口に背を向けて座らせた。みたいな。
だとしたら下手くそすぎる。まともな感覚持ってたら和室であんなことしないでしょう。
もし私の家であの様を見たら蹴り落としてますね。そのくらい不自然。
そんな芝居じゃなかったでしょここまで。

なんというか、演出の「まぁいいか」が聞こえてくるような気がしてすごく嫌でした。

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カレンダーの時間進行ってなんか意味あったのかしら。読み取れなかった。

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プロデュース公演にありがち。俳優間の力量の差が今回も見られた気がします。
特に声量のレベル差。

歳は関係ないと信じていますが、今回は若い人ほど聞きにくかった。シンプルに声量に差がありました。スッと芝居が入ってきたのは寺田剛史さんと村上差斗志さんかなぁ。
今回そういうのもあって女性陣でいいなと感じた俳優さんはいなかった。テーマから鑑みても残念。

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こんな感じで。

ほぼ難癖ですが私には刺さらなかった。「女性の自立」を履き違えてる感が否めない。
周りを無視して薙ぎ倒した結果1人立っている状態を自立というなら今回の描き方で良さそうですが。それとも…
あんまりこの辺語り出すと芝居の感想からかけ離れるのでやめましょう。

しんどい110分でした。