前半はこちら。
【d】「ただいまお騒がせしてる件について」
出演:萩尾ひなこ
脚本/演出:赤と気体
あらすじ
Vtuberの夢見乙女は炎上していた。
SNSは荒れに荒れていて、今までに経験したことのない燃え上がり方に恐怖を覚えるほどだった。マネージャーには連絡が取れず、素早い対応が求められていた。部屋を訪れた誰かに対応する余裕すらなかった。炎上の一つや二つ乗り越えてきたし、メンタルはタフな方だと自認していた。だがそんな彼女を何より困惑させていたのは、この炎上に一つも心当たりがないことだった。
以下、雑感
Vtuberへの愛を感じた。好きでしっかり調べてないとこのディテールは描けない。
しかしやはり「見る側」の視点から描かれた“配信者“の様子だったのかなと。萩尾ひなこさん、ますます魅力的になっていきますね。真摯で必死な想いがまっすぐ伝わってきたような気がします。
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舞台には机とキーボード。そしてまさしくって感じのゲーミングチェア。シモ手側が玄関。カミ手側が窓。一人暮らしのこじんまりとした部屋。
炎上した理由もわからず混乱する乙女。鳴り続けるインターホンにイライラしつつも対策の為マネージャーに電話。未だ続く配信のコメント欄には「男の声がした」との指摘が。彼氏も旦那もいないのに?困惑する乙女であったがログを確認すると確かに男の声が。あれ?これインターホンの向こうの男じゃね?なんと謎の男が部屋に侵入し、勝手に配信をしていたのだった。炎上理由がわかった乙女は恐怖を押し殺し、リスナーたちに事情を説明するのだが返ってきたのは辛辣な反応ばかり。Vtuberもワタシも人間なんですよ?
みたいな。
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脚本すごくよくできてると思ったけど尺の都合かあえての取捨選択か。少々描写不足な部分もあったかなぁと。”配信コメントを読み上げる”ということで一人芝居での独り言を上手く使っていてなるほどと思いました。
「男」の存在をほったらかすにはちょっと印象が強すぎた。一回侵入した人間がもう玄関先まで来てるなんて一大事、劇中で解決してもらわないとすごいモヤモヤする。あの後襲われたりしてないよね?
色々ご事情や制約があるとは思うんですが、折角のVtuberという題材。ネットでの姿をチラリとでも見せてくれた方がよかったかもしれない。観客としては乙女の台詞と身振りで妄想を膨らませるしかないわけだが、キャストの髪色などのビジュアルが二次元に寄っていて、彼女がWeb上で「17歳に変身している」という部分がぼやけたような気がする。アバターを出さないなら黒髪で普通のアラサーに詰めていった方がギャップが強くなって効果的だったのではなかろうか。痛々しさなども含めて。ピンク髪とてもお似合いでしたが。
炎上とそれに対しての反発。怒りや呆れ、そして愛などなど。様々な感情の燃え上がり湧き上がりの描写が丁寧で、違和感なく届いてきた気がします。俳優さんの技量もあるとは思いますが。
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萩尾ひなこさん。何度か拝見させていただいてとても素敵な俳優さんです。推してます。今回もエンディングまでの気持ちの積み上げが丁寧で胸に刺さりました。が、今回はそれを「技術」で見せてくれた感じがします。
いち観客の憶測ですが30分の一人芝居では芯から熱を上げていくには尺が足りなかったのかなと。例えば「吐く」や「喋れば喋るほど」のように自分の思い出話からエネルギーをもらってくるパターンと今起きてることから影響を受けてエネルギーを上げるパターンだと後者の方が難易度が高いですよね。一人芝居の場合。普段しっかりキャッチボールできている人ほど一人だと難しい。そこのところを萩尾さんはテクで見せて来てくれた感じがします。 これまで観劇した姿と比較しての話ですが。もう一層深い段階があるんじゃないかなと感じました。
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今回初めて拝見したんですが、赤と気体さん。萩尾さんとご同郷らしいですね。出身演劇部?いつか長尺のお芝居も観てみたいです。萩尾さんとのタッグも叶うならば。次も楽しみにしています。
【f】「フルムーン」
出演:明逸人(ELEVEN NINES)
脚本/演出:関戸哲也(空中宙地)
あらすじ
あの日も満月だった。がむしゃらに走った。人々の怒号が悲鳴と絶叫に変わった。
あの日も満月だった。背中をさすってくれた君はとても美しかった。君といたあの時間を僕は忘れない。届いていてもいなくても僕は叫ぶ。月明かりの下で。
絶望と憎しみの、慈しみと純愛のジェットコースター・ラブストーリー。昨夏札幌初演から大阪招聘を経て、九州に上陸!
以下、雑感
心底面白かった。気づけば何も考えず目の前の世界を追っていた。こんなにスムーズに没入できたのはいつぶりだろうか。
“一人”芝居だということを忘れるほどの多彩なキャラクターの表現、それらの切り替えの自然さたるや。
脚本・演出・俳優・諸々が高い次元でバランスの取れためちゃくちゃ良い芝居、物語でした。
これだけで3000円取っていいくらいの感動をもらいました。最高。
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舞台は何もなしの素舞台。
着の身着のままヌルっと出てきてしばらく無言。なんだなんだと思ってる間に気づいたら笑ってて終わってて泣いてた。観客を引き込むのがすごく上手でした。(浅いことしか言えない…)
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物語は、一人のちょっと毛深い普通の男の自分語り。未だ自分が狼男と気づいていない男がそれに気づくまでの悲恋の話。真面目で抜け目ない、純朴な青年の想いが胸にブッ刺さる素敵なお話でした。
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いやホントまずお話が素敵すぎる。人狼ゲームをベースに独自なメルヘン世界を構築してあるんですが、取っつきやすい要素がたくさん。オオカミ少年とか人狼ゲーム、夏目漱石、最後は山月記っぽさもあったかも。
冒頭の町に不穏な空気が〜みたいな文言って確かアプリ版人狼とかにありましたよね。
脚本っていうか戯曲っていうんですか。ホントに曲の様にリズミカルに展開されていったような気がします。テンポよく進んでいく展開にギャグもアクセントとしてめっちゃ効いてきてて楽しかった。
ジレット六枚刃くだり、めちゃ面白かったんですけどそれ以上にタイミング最高だと思いました。それまで完全に童話的世界だと観ていたので急に現実のワードが降ってきて不意打ちに笑います。それに中盤のあそこで空気の入れ替えみたいになって私としてはすごく助かりました。気付けになったというか。仮に私が書いてて思いついたら1回目の毛剃りの時に入れてしまってます多分。天丼で被せてくるのも上手い。
伏線の置き方が上手い。「月が綺麗ですね」出た時「あ〜〜そうきたか〜〜!!」めちゃアドレナリン出ました。文豪ってそういうことか!と。
キャラも相まって普通にギャグとして受け入れてしまった。使い方がうめぇ〜〜。これぞ正しく伏線回収。手際も描写も上手い。そして綺麗。
その後の愛してない愛してないがもうツラい…。いや!もうやめて!!ってなりましたわ。マジの悲しきモンスターやん…。茶化す以外でこんなん思ったの初めて。
ラストの遠吠えも胸にきました。直前のなんかちょっと自嘲気味な語り口も切なさを加速させる。
こちらに提示した情報を無駄なく無理なく全て回収していてスッキリ。冒頭のお母さんの一言からの”抜け目ない”ところも、汚職の証拠集めからの彼女への救済策。オーガくんも投げっぱなししない。美しい展開。他も色々、書ききれないですが。
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俳優さんが上手い。
キャラクターや場面、空気の切り替えが巧すぎる。背中撫でるところなんかホントに2人いるかと思ってました。切り替わってもまだ影が残ってるみたい。上手すぎてビビります。
声色のパターンがめちゃくちゃ多い。
俳優は声色多くないと、みたいな言説目にしますがそれにしたって多彩でしたね。キャラクター名鑑欲しい。そのポイントだけでも楽しかった。北海道にはこんな俳優ばかりなのか?いつか行きたい北の大地。
あと表情とか色々。全部好きでした。
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感動しすぎて書ききれませんね。とにかく色んなトコロが私の好みど真ん中にブッ刺さりまくって大変満足でした。
こんな俳優さんでいっぱいになってほしい。
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本当に良い芝居を観させていただきました。もはやお礼が言いたい。
今月末枝光で「異邦人の庭」に出演されるそうですね。今私もスケジュール調整してます。
また福岡に来てほしいです。切実に。
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こんな感じで。私の今年のINDEPENDENTでした。大変満足です。
福岡の若手俳優さんたちもどんどん出てきて顔ぶれがまた一新されたような感覚ですね。皆さんどんどんチャレンジしていってほしい。関係各者の更なる飛躍に期待しつつ、来年も楽しみに待ってます。