観劇・感想

観劇感想:FOURTEEN PLUS14+「変身」

原作:フランツ・カフカ 作/演出:中島さと

会場:ぽんプラザホール

チケット料金:2,000〜3,500円

上演時間:約60分

公演の説明

14+の演劇公演。フランツ・カフカの「変身」を手話通訳・字幕付きで演じた。

あらすじ

グレーゴル・ザムザは、ある朝、自室のベッドで目覚めると、自分が1匹の巨大な虫になっていることに気がついた。ことの次第を伝えようと、部屋の入り口まで這って出てくると家族は大仰天した。初めは妹のグレーテが、グレーゴルの世話をしていたが・・

家族との関係が崩壊することで見えてくる社会とのつながり。自己の存在価値とは。もし今日、自分がいなくなったとしても、世界は変わらず動き続ける。それでもただ、今を懸命に生きるのだ。  ※公式サイトより

キャスト

中嶋さと トクドメハルナ 佐藤柚葉 吉田忠司 関岡マーク

舞台手話通訳:野上まり 工藤知子

以下、雑感

上等な演劇を観たなー。見応え抜群。尺もちょうどいい。物語はカフカの「変身」、リアルに演じられるとまた違った味わい。ホラーノベルゲームをやってるような感覚。身体表現多めで言葉少なだが、表情や字幕などフルに使って不快さや落ちていく家庭の雰囲気が煮詰められてて最悪だった(いい意味で)。お手本みたいな演出が詰められていて見習いたい。良い観劇でした。

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開演前。舞台上から間口の縦半分くらいにスクリーン(ホリ幕)がかかっていて、白黒反転した街中や雑踏の様子が流されてる。

床はリノリウム。かなり広いアクティングエリアの真ん中にはミニテーブル。スクリーンを挟んで奥にはランプや椅子などの洋物の調度品いくつか。真ん中にはカーテンがかかっている。シモ手奥の捌け口には木材で化粧がしてある。

手話が入るということでどのような公演なのか。満席の客席にも何名か手話者の方がいるようだ。いつもと違う「ざわざわ」がなんだか楽しくさせる。

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「その演劇の良さ」って色んな要素が重なり合って生まれるものですが、今回は特に演出のパワーを感じました。もちろん俳優さんたちみんな良かったけれど、指揮者の存在感がすごく強かった。60分舞台の上から下まで意識が届いていて濃い空間だったなぁ。キャスト陣も全て把握して通じ合っている気がしてとてもよかった。好きな演劇だった。

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手話字幕付き公演。どんなものだろうと思っていたら、

のっけから全員の全身で現される「虫」。キモい!!衣装も単体だと可愛いけど連なるとちょうどキモい色味!!芋虫色!!嫌すぎるが良い。単体だと可愛いなマジで。14+さんはいつも衣装がいい。しかし虫はキモい。グレーゴルには悪いが。虫フォーメーションのバリエーションが豊富でキモかった。「ムカデ人間」を思い出す。

虫のインパクトに気を逸らされたけども、手話通訳者さんもしっかり劇世界に溶け込んでいて唸った。字幕も楳図かずおみたいな字体で楽しい。てっきりゴシック体のカチカチの字体でテレビの手話通訳みたいなかしこまった形を想像していたので…

通訳者の方の経歴は存じ上げませんが、この世界に入り込むのも並々ではなかったでしょう。すごい。

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演出が良い。ぐるぐる回る部屋はグレゴールの這い回る様を表してたのかな。リフレインで時間経過、世話をする妹や家族の疲弊。だんだんと「虫」に慣れてくるグレーゴル。

あと風。私はインドア観劇人なので劇場に四大元素が出てくるとワクワクしてしまう。(火水土風。土は無いか)4DXが流行るのもわかる。屋内と自然のギャップが効いてくるのかなぁ。

手話通訳字幕付きだけど、音も満遍なく活かしてきて、ちゃんと全方位観客に向けて芝居作りをしてくれてうれしくなっちゃったな。机の軋みや咀嚼音、風、衣擦れやらなんやら。開演前の雑踏や日常の風景も合わせて、このザムザ家の普通の家庭と増えていく異物、その落ち込み様が浮かんでくるようだった。

中盤が際立っていたけど、サイケな灯りがまたよかった。親和性がたかい。

キャストの皆さんも好演。ラスト旅行シーン、どこか後ろ暗い晴れやかさがなんとも言えない気持ちにさせた。

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しかし”演劇×字幕”ってもしかしてあんま相性よくないのかもな。今回の「変身」は塩梅よかったけど、序盤脳が慣れるまでもう目が滑る滑る。(だから最初あんまり喋らなかったのかな)もし今後こういった手法が増えていくなら情報量の調節がすごく重要かもしれない。実際手話者の方々にはどのように見えたたのだろう。感想が気になるところ。

映画は言うて「画面がひとつ」だから字幕成立するのかもな。新たな発見か。

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ちょっと捻くれすぎな見方かもしれませんが、

身障者に寄り添ったこの公演で演目がカフカの「変身」なのは皮肉が効いてしまっているなと。

「変身」そのものにそんな記述や補足なんかは実際ないんですが、”突発的に身障者を抱えてしまった家族”のメタファーなんじゃないかという見方もあるようで。私は結構よぎってしまった。

一家の大黒柱がある日突然働けなくなって意思疎通もできず、世話に追われて家族全体が困窮していく。今年は特にそうですが、突然襲ってくる不条理が身近に感じられるようになったかもなぁ恐ろしいことに。私も誰かもある日「虫」になってしまうこともあるのか。

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今回も面白かった。新メンバーも増えているし、今福岡で1番元気な劇団なのでは。次回も楽しみにしてます。