観劇・感想

観劇感想:あかりのプロダクション「トランス」

作:鴻上尚史 演出:後藤 香
会場:ぽんプラザホール
チケット料金:2,500~5,000円
上演時間:約120分
公演の説明
鴻上尚史の名作「トランス」に福岡の若手俳優三名が挑戦する。
あらすじ
高校時代、屋上で大事な時間を共有し、もう会わない、と決めた3人が偶然再会する。精神科医の谷礼子、ゲイの後藤参三、そして、離人症を患う立原雅人。あの日の屋上での、最後の約束を叶えるかのように、雅人によりそう礼子と参三だったが、隠していた彼らの痛みも露になっていく。妄想と真実の狭間で、漠然とした不安に立ち向かう3人の、愛と友情の物語。
キャスト
牧野ひかり 高橋力也 水嵜柊

以下、雑感

よかった。稽古期間のSNS運用を見ていてもそうだが、公演全体から「全員で良いモノを作る」気概のような物を感じていて、それが舞台上にもしっかり乗っていたように見えた。演出のパワーを強く感じた。始まりと終わりがクールだ。

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舞台はおよそ2間半四方の菱形の舞台。高さは50センチくらい?天下一舞踏会のステージみたいな。客席に向かって頂点を挟むように白い階段が二つ。
グレーパンチ。奥に向かって2メートルくらいのベンチみたいな机(おそらく寝台)。白いチェアが二脚。白布が掛かっている。

中盤、白グレーの鯨幕のような幕が降りたり上がったり。
場面によってはアクティングの外に俳優が出て壇上を窺うなど。

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始まり方カッコいいな
キャスト全員で場内整理をやっていて、定時になると舞台に走り出してバッとスタート。たまたま客席にいる直前のキャストさん(高橋力也さん)の表情をしっかり見れたけど、切り替わりの瞬間の表情がカッコよかった。ああいうの見られるとイイですね。

エンディングの灯りがキレキレだったな。「わーカッコいい灯りだなぁ」くらいのバカな感想しか浮かんでなかったけど、とにかくカッコいい灯りだった。細いクロスの感じ。なんだろ。

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『トランス』は難しいですよねえ。
「胡蝶の夢」やら映画「インセプション」とかもそうかな。「マトリックス」シリーズも無理やり括れる?
古今東西、実存と妄想の区別認識、夢と現実の狭間、それのどちらが正しいのか、そも正誤を決める必要があるのか?、幸せなら夢見たままでいいのでは?、いや現実が絶対?、でも何をして「現実」と定めるのか、、、
答えもゴールもないですもんねこの手のテーマは。結局選択して決めるしかないわけで。

後半の妄想ラッシュは人生のチャプターをザッピングしてるみたいで不思議な感覚でした。演劇を観てるようなテレビを見てるような。
演じていたら早送りと巻き戻しをなん度も往復するような感覚かしら。瞬間瞬間で積み上げていた流れから別ルートに行くのは大変そう。

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会話のキャッチボールは達者だし稽古量が窺えたが、盛り上がるシーンでも上がるのは役者の熱だけで空間全体の熱量はずっと変わらなかった印象。しっかり台本と役者に向き合ってきたのだと思うけども、それが逆に内側だけの高まりで終わったのではなかろうか。こっち(客席)に向かってくるエネルギーは感じなかったな。そんな演目じゃない、か?
総合的にあっさりした芝居になっていたように思う。
ラストの群読は観てて気持ちよかった。

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中でも三蔵役の水嵜柊さんよかったな。

座組感で信頼し合っているのが見て取れると楽しくなりますねなんだか。

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よかっただけに後説のゲンナリがすごい。

自分たちがどんなテイストの芝居したのか忘れたのかね。余韻もへったくれもない。もう少し大事にさせてほしかった。

今感動したのは目の前の3人に対してであって、いい芝居観た直後に知らない人たちがゾロゾロ出てきて今度観に来てくださいって言われても「誰なんだ」以外に感想がなかった。スキップできない動画広告に捕まったみたいだった。
せめて一区切り入れられなかったのだろうか。すでに推している人たちにはウケるのかな。

コメディなら受け入れられただろうか。終演直後の役者が宣伝しだすのは基本的に嫌いですね。

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なんにせよ芝居にしっかり向き合う若手団体ができるのはとても嬉しい。周りの大人もたくさん助けて大きく面白くなってほしいと思います。私は観に行くことしかできない。次も楽しみにしています。