作/演出:中嶋さと
会場:甘棠館Show劇場
チケット料金:1,500~3,300円
上演時間:約90分
公演の説明
同劇団で昨年上演した中編作品「PEACE」を、視点を変えて新脚本、新演出で上演。「PEACE完全版」とも言える作品。
あらすじ
私達は刑罰に一体何を期待していたのか。32年前、母を亡くした兄弟のこれまでと、これからについて。オルガンの下で何年もじっとしていた、カブトムシと多美子おばさんの残影、記憶。※公式サイトより
キャスト
中嶋さと 村上差斗志 こじまゆかこ トクドメハルナ 古澤大輔 北田祥一郎 結城なつ Johnny 空上まゆ 大本日月
以下:雑感
めっっちゃ良かった……。罪と罰とそれから巻き起こる人の流れ。今と違ったはずの人生をずっと頭の片隅に置きながら、それでも支え合って生きていく。ほんとは全部ぶちまけてもいいのにそれでも社会とか自分とか守るために考えて行動できるみなさん。すげえ偉い。映画「空白」を思い出しました。罪と罰と赦しの話。
ホラーテイストな演出もこの季節にぴったり。ジトジトした梅雨のような雰囲気でしたが、冷たい雨の中暖かい晴れ間を探し回るような、少し切なくて優しい物語でした。ドット柄で統一された衣裳も可愛くてステキです。
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舞台は甘棠館show劇場。通常通りの客席作りではなく、90度回転してホリが右手側、調光が左手川に来る壁側が客席になっている。
開場中は風鈴の音が響いていて、舞台上はブル転状態。受付口から入る陽射しや少し遠い案内の声がなんとなくホラー感を高めている。既にしてちょっと良い。
中央に扉。左側は蝶番の普通の、右側はスライド式の引き戸になっている。普段は確か観音開きのドアだったので芝居のためにイジったのかな。
センタードア前からカミ手はけ口に向かって、奥壁に沿うようにスロープが伸びている。高さは2尺くらい。小さい花道みたいなイメージ。
カミ手側、甘棠館本来の奥側の壁は黒いカーテン(ホリ幕)が閉まっている。そこの開閉も出はけに利用されている。そこが全開して白壁に映像が投影されたりなど。
全体の基本カラーは黒系で統一。
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叔母の法事で集まった兄弟の話。二人は幼い頃通り魔に母を殺されてしまい、叔母の多美子に育てられた。「その日」から変わってしまった他人と世界と向き合いながら大人になった二人は久々の再会を契機にそれぞれまた事件と向き合い始める。
みたいな。ざっくりしすぎですが。
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とにかく何がよかったんだろう。すごくわかりやすく作られてたなと。
被害者遺族のその後、罪と罰、加害者をいかに罰するのか、罰したとしてその後は?、救いとは、気持ちの折り合いとか、「やった」「やられた」、被害者を心配(ケア)するということ、自己満、正義、偽善とは、傷は治らないし時間は戻らないし大事な人は帰ってこない。それでも社会をよくするため、根本をよくするために耐える?許す?とはまた違うかな。とにかく前をしっかり向いて生きていく。そんな感じか。私の雑な箇条書きですが。
重いテーマが押し付けがましくなく、かといって捻くれずにスッと伝わって、脚本・演出のパワーを感じました。すごくわかりやすかったし、見やすかった。役者さんの表現力に依るところももちろん大きいでしょうがキャラクターそれぞれの行動、思考にも違和感がなく素直に感情移入できました。
そう、みんな悪くないよね。悪くないのに辛いよね。でも頑張って変えようとしててマジでえらい。
幸一郎(村上差斗志さん)は今まで「やられた」側だったのに、青柳くん(北田祥一郎さん)に対して初めて「やった」側になってしまい。対して青柳くんはやられた直後にもかかわらず、加害者の自分を咎めないどころかこれからもよろしく、と。劇的な演出はなくても確かにパラダイムシフトが起きたのがわかってよかった。ここまでの丁寧な描写の積み重ねが効いてましたね。
その後の恵太(古澤大輔さん)との和解、というと大袈裟ですが、あそこもよかった。言葉を交わさず態度と行動だけで変化が伝わってきます。これからあの兄弟の関係性もちょっとずつ変わっていくんでしょうね。先を
感じさせる良い締めでした。
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すごくバランスの良いシーンの配分だったなと。
過去、現在、空想、笑いとシリアスとコメディ。飽きが来ないバランスでとてもよかった。終わってから「演劇観たなぁ」って思えました。
特に子供時代のホラー的演出。あの巨大多美子おばさん、見た目のインパクトもさることながら子供目線でのおばさんへの恐怖感というか、そういう表現がビンビン伝わってきてこっちまで
怖かった。子供の時の大人ってああいう風に見えますよね。その他の場面でも多美子さんの顔を頑なに映さないのも二人から見た「おばさん」の得体の知れなさがこっちにも伝わってくるようでした。しかしその不気味さの中にも、最後には優しさや弱さが垣間見えて不思議。製作陣にハメられた気がします。
工場のコミカルシーン。とても楽しかった。ディズニー映画みたいなポップさを感じました。甘棠館で近いのもあると思いますけど、デカい大人たちが縮こまって真剣に缶詰見てるの面白すぎました。良い滑稽さでした。
反面青柳くんの抱えていることと相まってなんとも言えない味がある場面になっていたような気がします。演じた北田さんのビジュアルの効果もありそうです。あの体格であの甘そうな表情がなんともキャラとマッチしてましたね。
兄弟二人の空想のシーン。ともすればわけわかんなくなる場面を見事に演じられていて圧巻でした。荒野も川も見えましたもんね。ベテラン俳優お二人の地力を感じさせられました。
そう、お二人とも本当に素晴らしかった。ダブル主人公兄弟。その場面だけでなく「あの日」からの数十年が積み重なって今のあの兄弟を形作ってることが伝わってきます。描写されていないところでも、きっとこんな風に過ごしてきたんじゃなかろうかと想像できました。
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村上さんはたんびたんびに、特に昨年の一人芝居で拝見していたので知っていたんですが、恵太役の古澤さんは初見でした。冒頭からはあんなに動くタイプの俳優さんに見えなかったので川のシーンでびっくり。柔らかい語り口や雰囲気もドンピシャ好みで、好きな俳優さんがまた一人増えました。
そしてラスト、スクリーンの思い出。いや無理やわ〜〜〜泣くわあんなん。壁に手をつくのやめてくれ、胸が痛い。だって本来ならあんな風に思い出すものじゃないはずだったのに辛すぎる。幸一郎の背中がもうやばい。
しかし、頑なだった心が柔らかくなっていく瞬間。ある種過去に一線を引いてまた一つ大人になったという表れなんでしょうか。すごく美しい場面でした。このための甘棠館横向きだったんでしょうか。
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ただ全体として、爆笑とか大きな波はなくダウナー系の刺激のみだったので少し長く感じました。正味2時間くらいかと思ってましたので、終わってみて90分でびっくり。
導入や序盤のキレが後半にも入ってきていたらまた違ったのかも。これは素人考えですね。よくない。
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終わってからの締め方もバッチリ。カーテンコールも後説も余韻が大事にされていてスッキリ劇場を出ることができました。
今回特に感じたのは、客席にいてお客さんが皆拍手“したがっている”ような雰囲気。私も同様ですが、良い芝居を観た時って自然と身体が動いてしまいますね。
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全て観てきた訳ではありませんが、今回は過去に観劇した中でも群を抜いて面白かったです。14+は+Uの若手メンバーも控えておりますし、ここに来て先が楽しみな劇団になりました。次回作も期待しております。
「PEACEーoriginー」とても良い時間でした。