観劇・感想

観劇感想:まちあわせプロデュース公演Vol.1「ララ・バイ」

原案:まちあわせ
作/演出:川口大樹(万能グローブガラパゴスダイナモス)
会場:甘棠館Show劇場
チケット料金:3,500~6,000円
上演時間:約110分

公演の説明
福岡の林純一郎と仲藤涼花によって立ち上げられた演劇プロデュースユニット”まちあわせ”の旗揚げ公演。脚本演出に万能グローブガラパゴスダイナモスの川口大樹を起用。福岡の若手俳優を中心にキャスティングされ、甘棠館Show劇場で上演された。
あらすじ
フリーライターの市ヶ谷ソウスケはパートナーと二人、とある田舎町のカップル専用シェアハウスに引っ越してくる。
いつも喧嘩ばかりの怪しげなカップルや彼女にフラれたのに居座る留学生、優し気な管理人…住人たちは快くソウスケたちを迎え入れる。しかし彼の本当の目的は、この街のとある宗教団体の調査だった。本当はみんな気づいてるのに目をそらしている、そんな事実を明らかにするという信念のもと取材を続けるが、ある出来事をきっかけにソウスケの心は大きく揺れ始める。見えてる?見えてない?見えてないフリ?
住人達も巻き込み、喜劇も悲劇も混ざり合って事態は大きく転がり始める。

キャスト
橋本あかね/北田祥一郎/今中智尋/松尾佳美/杉山英美/鹿毛喜季/上野直人/桑野イドリス/古賀駿作/松村来夢

以下:雑感

じわ~っと面白いが爆発力に欠けた印象。大きな一本の流れに沿ってイベントが起きていくわけだが流れは流れたままなので大きなカタルシスはない。ホラー物の定番のバッドエンド。「あちゃ〜〜」と「うわ〜〜」な気持ちになる。
明らかにここ面白いとこなのに役者力が足りず笑いまで昇華できていない所がチラホラ。
ジェネリック・ガラパって感じ。


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舞台は甘棠館Show劇場。若手俳優主宰のプロデュース公演の旗揚げ、とはいえ作・演出はガラパゴスダイナモスの川口大樹氏。
ステージはガラパよろしくかなり作りこまれた具象舞台。カップル専用シェアハウス。カフェとリビングが合体したような、ロッジみたいな部屋。可愛い。
シモ手側がキッチン。カミ手側に小上がりがあってリビング?っぽいスペース。パン屋とかのキッズスペースみたい。
シモ手ハケ口が玄関。カミ手にはハケ口が二つ。奥がキッチンの勝手口。手前が二階に続く階段。二階は住人たちの部屋があるようだ。
舞台中央の白い壁はスクリーン代わりになっており、観劇前の諸注意や登場人物の携帯画面など様々な映像が映る。

シモ手側の窓からは外の灯りが漏れて入るようだ。

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物語はとある地方のカップル専用シェアハウス。市ヶ谷ソウスケ(古賀駿作さん)と市ヶ谷リカ(松尾佳美)の二人は表向き普通のカップルを装って入居してきた二人だったが、その正体はこの街に本拠を構える宗教団体「微笑みの花」を調査するためにやってきたフリーライターだった。

ソウスケは同じく「微笑みの花」を調査中に不審死した先輩の意志を継ぎ、“真実を明らかにする”という信念のもと、「微笑みの花」に関する漫画を描き失踪した漫画家・宮村ノノコ(橋本あかねさん)を探しにきたのだった。

シェアハウスの住人たちからの協力(?)もあり、ノノコとの接触に成功したソウスケ。しかし彼女も、また住人たちも秘密を抱えていて…、

みたいな。

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結論から言うとバッドエンド。

「真実」とはなんなのか。結局人は自分にとって必要な事実を真実として選び取ってしまう。そんな人間の”弱さ”や”脆さ”みたいなものがテーマだったのかな。

真実の曖昧さとか。

最近あった宗教漫画の打ち切り事件とかオウムとかがモデルなんですかね。アーボとかあれ“ポア”だし。サンスクリットっていうかインド的宗教感が参考にされてるのかな。ワードのニュアンス的に。違うかも。

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面白くなくはないんだけどな〜〜〜〜というのが正直な感想。微妙です。佳作?

こういった群像劇の特色って、散りばめられた謎や伏線が最終的な一点のゴールに向かって結実して解決するカタルシスというか、スカッと感みたいなところだと思っておりまして

今回も大きな流れに沿ってまとまって来てはいたんですが、一つも解決せずに流れたままだったのでモヤモヤした部分が残りました。まぁこれは私の好みによるところも大きいので読み流していただいて大丈夫です。敗北エンドホラーはそうなりますよね。

なんか一個事件に区切りをつけてから実はまだ…。みたいなエンディングだったらスッキリとゾワゾワの両立が成ったのではないかなんて思います。いち観客の戯言です。

正直リカちゃん(松尾佳美さん)の正体とか序盤は全く気にならなかったので途中で謎を仄めかされても「へ〜」としか思わなかった。頼んでないのにおかわりがきた感じ。風呂敷は広がり続けていく。追加で謎を増やすより序盤で示した問題の解決に注力して欲しかったかも。

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結局ソウスケを主軸にテーマの深掘りを狙った構成だと解釈したんですが、いかんせんソウスケの主人公感が薄かった。登場人物それぞれのエピソードも、それぞれ味が濃すぎる上に解決しないままなので全てが重く残ったまま観劇を続けることになっていきました。その結果こちらの意識するポイントもまばらになってしまいひどく疲れました。ドラマのエンディングを連続で見せられたような。追いかけるラインが多すぎた。

今回のような大きな事件を追う物語だと一人のしっかりした目線があった方がよかった気もします。ただでさえ気にするトピックが多いので意識の錨というか観客目線のキャラがいてくれたら個人的には嬉しかったかもしれません。

主人公だれ?って聞かれたらちょっと迷いますもんね。

ある種盲目的に「真実」を追ってきたソウスケはラスト、見えてるものを見ようとしない真実から目を背ける住人達の様を立て続けに見せつけられる。そのうえ己自身もずっと真実から目を逸らしていた事実を突きつけられた結果、とうとう自分の意志で現実(真実)から目を背けることを選択してしまう。

と読み取ったわけなんですけど。ソウスケは全員分見たわけじゃないんですよね。幽霊組とか。観客は当然全部観てるわけでその点でソウスケとの乖離がありました。ラストに締めくくりに持ってくるならキャスト全員としっかり絡ませるべきだったかも。観客と理解度を合わせていくとか。わからんが。

しかしこの心にズシッと重石を残すことが狙いの物語なのだとしたら大成功です。ズンっとなって劇場を後にしました。全てがダークサイドに向かって落ちていくラストがなんとも言えないおぞましさを感じさせてくれました。

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ここガラパメンバーが演じてたら絶対笑えたところだな。と“お察し”してしまう箇所がチラホラ。大庭(鹿毛喜季さん)が2回目入って来たところとか。ぬいぐるみで虫を仕込むフリをする所とかもっと笑えたと思うんですよね。

川口さんの脚本ってテンポよく会話を進めるだけでは笑えなかったりします。空気を全員で感じて作る必要があるというか…。その点ガラパ劇団員の方々は統一された感覚を持ってらっしゃるといつも感じてるんですが、今回はキャストの技量も一段落ちるというか。その段階までは意識できていなかったように観えました。

シンプルに惜しい。そこまで引き上げる時間はなかったんでしょうか。

そういう意味でもジェネリック。

小道具の扱いなどでもひっかかる点が。ケーキやコーヒーの入った物を結構雑に扱ったりとか。絶対ぐちゃぐちゃなってるしこぼれてるよね。あと偶然入った家でチラシ配ったのにちょうど人数分で配り終わったりとか。細かいですがそういう芝居のディテールも気になってしまった。

全体的にシリアス:コミカル=9:1くらいに感じたんですが、キャストの会話の回し次第で7:3くらいに空気を持っていけたんではなかろうか。そうなれば本筋のシリアスもより際立ったのではないでしょうか。

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杉山英美さん、さすがの安定感。人の良い管理人さんの顔と内側の悲壮感溢れる歪みが、もう見てるだけでツラかった。素敵な俳優さんです。

古賀駿作さん、声でけぇ〜〜〜〜〜〜。パワフルですねえ相変わらず。間違いなく強みなんですけど周りとのレベル差(音量的な意味で)が目立ちました。そんなに声デカかったら一回くらい誰かツッコミそうなもんですがね。あの世界だと。他の俳優さんが声あんまり通ってなかったかな…?

桑野イドリスさん、片言からの空気の代わり様がよかったですね。ゾクっときました。

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もはや万能グローブガラパゴスダイナモスなんですよね。Twitterに散見される感想も「川口さんの脚本の~」とか

旗揚げをこの感じで出してしまったらこれから“まちあわせ”さんとしての色を出していくの大変だろうなあ。キャストも舞台も脚本もガラパ色あるし、かといって値段も安くはなく下手したらガラパの本公演より高いかも。それでいてキャストの演技力はガラパ以下。運営が違うのは観客としてはどうでもわからない部分でもあるし2回目以降はどうするんでしょう。折角旗揚げたのですから独自の色を、味を出して行ってほしいものです。

当パン読んで知りましたが、ダークな方向で進んで行くんですかね。ホラー見るならココ!という地位を築いていけたら素敵です。表看板とのギャップは凄まじいものがありますけども…。

私は川口大樹さんの脚本、ガラパさんの脚本大好きですが8月の「今夜、アラビアータの横でペスカトーレ」も同じ作演出。このままでは福岡はジェネリック・ガラパで溢れかえってしまうのではないかとある意味心配です。

好きな作家さんが大人気なのは大歓迎ですが。次回作もガラパもどきなのかもと思うともうガラパゴスダイナモス観にいったらいいですもんね。