観劇・感想

観劇感想:ヨーロッパ企画「九十九龍城」

作/演出:上田誠
会場:西鉄ホール
チケット料金:3,000~6,000円
上演時間:約120分

公演の説明
ヨーロッパ企画の2年ぶりの本公演。アジアの知られざる魔境、九十九龍城のことが描かれる。
福岡以外にも滋賀・京都・東京・広島・愛知・富山・高知・愛媛・大阪・神奈川の全11か所。
2月末までの全国ツアー公演。
公式サイト
あらすじ
物語は、IT企業ビルの爆破事件から始まる。2人の刑事は、犯人が潜伏しているとされるスラム「九十九龍城」の操作を始める。台湾警察の最新技術を駆使し、魔窟の住人たちの暮らしぶりを観察する2人だが、若いリー刑事は滾る正義感を抑えられず単身「九十九龍城」へ潜入してしまう…。

キャスト
石田剛太、酒井善史、角田貴志、諏訪雅、土佐和成中川晴樹、永野宗典、西村直子、藤谷理子、本多力金丸慎太郎、早織

以下:雑感

おもろ〜〜。みんなの夢の魔窟「九龍城」をモデルにしたドタバタSF。
退廃的なムードの中にも明るいユーモアが散りばめられている、楽しいコメディでした。
結末は少しの希望と、裏側の大きな存在の圧のようなモノを感じてなんとも不思議な後味。

*****
舞台は西鉄ホール。客席はパンパンほぼ満席。さすが。

「九龍城が取り壊されずに現在まで存在していたら」という設定のもと(実際の九龍は93〜94年に解体)、
建て増しで増殖しまくった“九十九”龍城(キュウジュウクーロンジョウ)を舞台に繰り広げられるサスペンスコメディ。
物語はその膨大な区画の一部、屋上付近の一角にスポットを当てて展開される。

舞台上、床から天井までギッチリ敷き詰められた違法増築しまくりの雑居ビルの隙間。まさしく本物の九龍スラムみたい。
汚れやネオンがすごくいい味出してました。入った瞬間インパクト大で掴みはバッチリ。
シルバニアファミリーみたいに重ねられた部屋には、部屋ごとに様々な店舗が入っている。

物語は中盤まで、香港警察の”特殊技術”によって「ビルを遠隔に透視することができる。」という設定でベテランと若い刑事の二人が
九十九龍城の住人たちのイリーガルでフリーダムな生活を覗き見する形で進む。二人の実況付き。
よくある舞台表現として各部屋の客席側の壁が丸ごと開き、中の芝居が見られるようになる。
よくあるやつとして普通に見てたんですが、後々あんな風にかかってくるとは。メタ的に盲点を突かれて楽しかった。

また、舞台ツラに間口いっぱいに薄い白幕スクリーンが要所要所で降りてきて映像投影。
所によってはプロジェクションマッピングもバリバリ駆使して、映像×演劇がバッチリ噛み合ってて「新しい演劇だなー」と思いました。この感覚もう古い?
いつ頃からかのニュースタンダードなのかしら。小演劇ばかり見てるとあまり触れないので新鮮でした。

小道具大道具類も造形細かくて楽しかったなー。場面が変わる度に楽しみになってました。画素粗い肉とか手とかすごい好きでした。

*****
ヨーロッパ企画と言えばSF。
中盤まで見てた時、「今回はSFじゃないのかー。正直ちょっとかったるいなー」と思ってましたが、終盤からの巻き返しで大反省。

めっちゃ面白かったです。
細かいギャグも面白いし、なによりツッコミが上手いですよね。空気感というか、昔から大好きです。
福岡だとガラパゴスダイナモスが雰囲気近いかな。

しかし伏線の設置と回収が上手いなぁ。全然気づきませんでした。四角い肉とか。
妖精くらいからやっと「あ、これゲーム世界かも」と予想つきましたがそこまでは全然気づきませんでした。
ナチュラルにギャグの一環なのかもとか。手紙の督促とかも素直に驚いてしまった。
予想通りだけどその予想を少し越えてきてくれるのがヨーロッパ企画の好きな所です。
サマータイムマシンブルースとかその辺顕著かも。あれもすげえ好きです。ワンスモアも。

*****
本田力さん超イイですよね。あれはオンリーワンの雰囲気だ。兄の登場シーン最高でした。現代アートみたいでしたね。

*****
あの終わり方は…。複雑な心持ちです。

リー刑事のあの叫びは、普通の王道物語ならあのままなにかしら奇跡的なパワーが発生して全部元通りハッピーエンドって感じなんでしょうけど。
そんな簡単にはいかないほろ苦いエンドがなんとも味わい深かったです。

結局強制ログアウトされたプレーヤー(土佐和成さん)の存在からバグマフィアの発見→アップデートで綺麗さっぱり。っていう流れで合ってますかね?
リー刑事は記憶が残って修正されたみんなのその後を見届けられて爽やかに終わった感がありましたが、
結局は運営の大いなるパワーによって世界は書き換えられ、彼ら彼女らは”モブ”のまま閉ざされた九十九龍城で暮らしていくんでしょうか。

ラストのあの生きた叫びも結局は虚しく散っていっただけなんでしょうか。私の解釈ではこんな感じです。
ある種幸せなディストピアに閉じ込められたままのビターエンドなのでは?
一筋縄でいかないSFがすごく好みでした。

*****
二年ぶりの本公演、本当に楽しませてもらいました。
結構ネタバレ厳禁な作りになっている今作。全国ツアーで福岡はまだまだ半ば。
コロナがまた流行りだしている昨今、どうか無事に乗り切れますように。

皆さんネタバレと体調管理にどうか気を付けて。
この楽しい魔窟を一人でも多くの人と共有できますように祈っております。
すごくいい観劇でした。また次も是非福岡に来てほしい。